アマゾン・ジャパンが倉庫の中で新品書籍のスキャン代行サービスをすればいい

先日の日記 http://d.hatena.ne.jp/softether/20130827 で、日本の Amazon から書籍を購入し、スキャン代行業者に直接送付してスキャンしてもらい、結果の PDF ファイルをネットで納品してもらって読むという方法について書いた。ネット通販で書籍を購入し、それをスキャン代行業者に送付してスキャンしてもらったデータをタブレット等の電子端末で読むという使い方は今後ますます増えるに違いない。それならば、いっそのこと日本の Amazon が配送倉庫内でスキャン代行サービスを開始すれば良いではないか。


仮に、Amazon がスキャン代行サービスを開始するとすれば、書籍の商品ページの画面イメージは右のようなものになるに違いない。新品の書籍で、Amazon の倉庫に在庫があるものについては、スキャンを依頼するボタンをクリックすると、数時間以内に Amazon の従業員が倉庫から書籍をピックアップしてスキャナにかけ、その結果の PDF を顧客にダウンロード提供する。出版社や著作者の利益を保護するため、スキャンした書籍は絶対に再利用せず、廃棄待ちのリストに入れる。顧客からスキャン品質が不良であるというクレームを受け取った場合は、1 週間以内であれば再度スキャンする。1 週間以上経過したら、Amazon の責任で書籍を破棄する。Amazon は、スキャンした書籍を正しく廃棄している旨の監査報告書を、本社の有価証券報告書に含めることで、「実は廃棄せず再利用していた」というような不正を防止する。このようなモデルであれば、日本の Amazon の倉庫に少しの設備投資をすれば実現できそうである。


日本の Amazon では、ようやく、ごく一部の和書が Kindle 版が購入できるようになったが、未だ紙媒体でしか購入できない和書がほとんどである。ユーザーとしては、同一内容であれば、本来は電子書籍のほうが紙媒体よりも割安であることを期待しているのは確かである。しかし現状では、もし紙媒体と同一価格、または少し高めであっても電子書籍版があれば、迷わず電子書籍版を購入したいと考える人も多いに違いない。このような人は、Amazon から購入し、購入した本をスキャン代行業者に配送し、スキャン代行業者で PDF 化してもらって、これを電子端末で読んでいる。しかし、これは大いなる無駄である。それならば、最初から Amazon の倉庫の中で新品書籍のピックアップ・スキャン・破棄の作業を完結させれば良いではないか。


Amazon がスキャン代行サービスを開始すれば、別のスキャン代行業者に現物が郵送されるまでの時間を短縮することができ、PDF データの納品までの時間が大幅に短くなるに違いない。それだけではない。Amazon では、国内への書籍類の送料は無料であるが、当然、この送料には 100 〜 200 円くらいの原価がかかっている。この原価は Amazon が負担している。仮に Amazon がスキャン代行サービスを開始して、十分な数の利用者が増えれば、300 ページ程度の書籍を 1 冊スキャンするのにかかる原価は 200 円未満となるから、Amazon における「お急ぎ便 送料無料」の代わりに「8 時間以内にスキャン・無料」というサービスを実現させることができるに違いない。


現在、紙の書籍を Amazonお急ぎ便で書籍を購入すると、8 時間 〜 24 時間後くらいに現物が宅配便で届くようになっている。もし Amazon がスキャン代行サービスを開始して、同じように、8 時間後くらいにスキャンデータがダウンロード可能になるのであれば、顧客の立場としては、非常に高い満足度を得られる。


現在、書籍のスキャン代行サービスについては、一部の出版社の方々などがこれを問題視し、反対意見を主張している。しかし、もし Amazon が新品書籍のスキャン代行サービスを開始した場合は、誰もこれに正当な反対意見を述べる余地がないはずである。Amazon の新品書籍の在庫が Amazon の倉庫の中でスキャンされ、スキャンが完了した新品書籍が確実に破棄する (横流ししない) ことが Amazon によって保証されているのであれば、出版社も、取次業者も、製本・印刷会社も、この過程において全く損害を被らないはずである。なぜならば、1 冊の新品書籍が Amazon によって販売され配送された場合に生じる売上と、1 冊の新品書籍が Amazon によってスキャンされ電子データが顧客に納品されるとともに書籍の実物が廃棄処分された場合に生じる売上とは、全く同一になるからである。Amazon で顧客が実物を購入する場合と比較して、スキャン代行してもらってそのデータを購入する場合は、出版社は全く損をしない。Amazon と出版社との間に入っている取次業者各社も、出版業界関係者も、一切損をしない。むしろ、これまで紙媒体の本の受け取りが面倒であると感じて好まなかった新たな読者層を、スキャン代行サービスの出現によって取り込むことが可能になるのだから、Amazon だけではなく、出版社、取次業者、業界関係者いずれにとっても利益につながるはずである。


そもそも、書籍スキャン代行サービスに関する現在出ている正当な反対意見は、「スキャンされたデータファイルが違法コピーされ、ネット上で流通する恐れが高まる」という程度のものである。確かに、汎用のスキャン代行サービスに委託して書籍をスキャンしてもらった場合、その結果のファイルは DRM がかかっていない PDF ファイルなので、ユーザーによって簡単にコピーできる。PDF ファイルがファイル交換ソフトウェアなどを通じてネット上で流通すれば、著作権者は損害を被る。しかし、もし Amazon が新品書籍のスキャン代行サービスを行うのであれば、スキャン結果には DRM をかけて Kindle のデータフォーマット (Mobi ファイル) で Kindle 端末に配信し、Kindle 端末でのみ読むことができるという仕組みに乗せる可能である。つまり、顧客は Amazon から PDF ファイルをダウンロードするのではなく、持っている Kindle 端末でのみスキャン済みデータをダウンロードできる、という仕組みは、Amazon の現在のインフラで簡単に実現できるはずである。KindleDRM は登場後数年間それなりにうまく機能しており、今のところ、Kindle コンテンツの違法コピーが大問題となって出版社が損害を被るという話は出ていない。Amazon の側でも、Kindle コンテンツの違法コピーが増えれば自社の売上の減少につながるから、今後、容易な DRM 破りの方法が普及してしまった場合は、Kindle をその都度アップデートすることにより本気でこれを防止しようと努力するに違いない。Kindle には 3G 回線が付いているものもあるが、スキャンデータは 1 冊あたりだいたい 50Mbytes くらいになってしまうので、マンガ本と同様に Wi-Fi 経由でのダウンロードを必須にすれば、Amazon が 3G 携帯電話会社に支払う通信料金にも影響しない。


このように考えると、Amazon が、顧客が購入した書籍を倉庫内でスキャン代行してデータを DRM 付きで納品し、その書籍は確実に破棄する、というサービスを開始すれば、出版業界の各社はいずれも損害を被らず、逆に利益が増大するという、大変好ましい結果につながる。仮に Amazon がこのようなサービスを開始したとして、それに反対する声が上がるとすれば、それは「書籍を伝統的な紙の媒体で読まず、代わりに電子デバイス上で読むことはけしからん」といった、他人に対してあえて不便を押し付ける (そして多くの身体障害者の方から読書の機会を奪う)、全く尊重するに値しない古い考えを持つ人による感情論のみになるはずであり、これらは容易に無視することができるはずである。


現在、Amazon で書籍を購入し、スキャン代行サービスで電子化してもらってそれを読むという工夫には、時間や送料がかかり、また委託先のスキャン会社によって品質に不均一性があるという問題がある。Amazon が自らこのようなサービスを開始することで、健常者にとってはもちろん、手で書籍を保持し指でページめくりをすることが大変であるとか、または文字を拡大・縮小することができない書籍を読むのが難しいとか、そもそも目が不自由なので OCR をかけたテキストを音声読み上げソフトで聴いているというような身体障害者の方々にとっても、読みたい書籍を気軽に読むことができる時代が到来するはずである。このような時代は、新刊書籍の多くが紙と同時に電子書籍版も刊行されている米国などではすでに到来している。日本では、和書の電子書籍化が遅々として進まないが、Amazon のような信頼性があり流通量の大きい業者が自らこのような大胆なスキャン代行サービスを開始することが突破口になるはずである。