米 Amazon の MP3 Music Store から日本人が音楽をダウンロードすることは逆輸入ではない

「音楽 CD 逆輸入禁止法」では、日本で販売されている音楽 CD と同一の音楽 CD を海外から輸入販売することが禁止されています。しかし、これはあくまでも「頒布する目的」で輸入することを禁止しているのであり、自分で使用するために輸入することは禁止されていません。
たとえば海外旅行をした際に非常に安く正規の音楽 CD が販売されていたので、それを購入して帰国時に持ち帰っても問題はありません。また、最近では米国の e-bay や通販サイトなどを用いて、日本の住所に対して音楽 CD を送付してもらうことも簡単です。ただし、これらの方法は送料や時間がかかり、そのコストが、海外で販売されている価格と国内で販売されている価格の差額を必ず上回ってしまうため、国内事業者にとって脅威ではありません。

これと比較して、米 Amazon の MP3 Music Store から日本人が音楽をダウンロードすることについて考えてみたいと思います。MP3 Music Store からダウンロード購入する際は、送料はかかりませんし、ダウンロードも数分で完了しますので、配送コストもかかりません。したがって、日本国内で音楽 CD を購入したり、日本国内の MP3 ダウンロードサイトで割高な価格で音楽を購入したりする場合と比較して、ユーザーは、必ず利益を得ることができます。
前に説明したように、ユーザーが販売目的で外国から音楽を輸入することは禁止されていませんし、また、そもそも米 Amazon の MP3 Music Store から日本人が国内のコンピュータに音楽をダウンロードする行為は、輸入ではありません。関税法の規定する「輸入」というのは、「貨物」を海外から国内に引き取る行為を意味します。MP3 ファイルが格納された CD-R を送ってもらうことは「貨物」なので輸入となりますが、MP3 ファイルをインターネット経由で海外のサーバーから送信してもらって国内で受信しても「貨物」ではないので輸入ではありません。

このように、米 Amazon の MP3 Music Store から日本人が音楽をダウンロードすることは、日本の法律に違反する行為ではありませんし、将来的にもこれを違法にするおかしな法律ができることはないと見ています。そのような法律には建前の大義名分が無いためです。


今のところ米 Amazon は MP3 を日本から購入する際に、ギフトカードを経由して決済し、かつ、購入ボタンをクリックする瞬間に米国の ISP の発行する IP アドレスを用いて Amazon のサーバーにアクセスしていることを日本の利用者に対して求めています。
恐らく Amazon としては本当はすべての日本人に対して安価な米 Amazon の MP3 Music Store を利用してもらいたいと考えているところですが、Amazon は日本にも法人があり、物理的な物の流通業も行っているので、その仕入れ先の会社との関係が悪化しないようにするため、わざと、一般的な日本のインターネットの初心者ユーザーには米 Amazon の MP3 Music Store を利用しにくいようにし、プロキシや VPN などを用いて一時的に米国の IP アドレスで通信をすることができる程度のリテラシーを持ったインターネットユーザーに対してのみ、こっそりと MP3 のダウンロード販売を実質的に認めているのではないかと推測できます。
(なお、米 Amazon の MP3 ダウンロードサービスの規約をよく確認していないので、定かではありませんが、もしかすると、米国外から MP3 Music Store を利用するなと書いているかも知れません。もしそうであれば、上記の方法で日本から MP3 Music Store を利用する方法は利用規約に違反することになります。その場合は、利用規約に同意せずにサービスを利用するか、または、利用規約に違反していることを認識しながらサービスを利用する必要があります。この場合でも、いったん決済が完了し、自分のハードディスクにダウンロードが完了した MP3 ファイルは、違法に複製されたものではなく正規に著作権者からライセンスされた Amazon が複製した MP3 ファイルですので、個人的に使用する上では問題なく、また、Amazon が後から利用規約に違反して米国外からダウンロードされたその MP3 ファイルを消せと言ってくるはずがありませんし、仮に言ってきてもそのファイルを消しなさいというような強制執行力を伴う訴訟を日本の裁判所に起こすことはできないと思います。したがって、現在上記のようなテクニックを使用して米国外から MP3 Music Store を利用して MP3 ファイルの購入に成功するのであれば、その間に、好きなだけ安価に購入しておく行為はノーリスクであるということになります。)


上で、「音楽 CD 逆輸入禁止法」について、『国外の事業者は日夜競争を行う訳ですが、その間にも国内の事業者は麻酔的な法律によって痛みを忘れ、何もせずだらだらと過ごしていると、そのうち、麻酔的な法律で対応することができない程度の、国内と国外との競争力の差異が発生してしまい、その瞬間、当該事業に関係するすべてのビジネスが一瞬で崩壊してしまいます。』と書きましたが、海外からの安価な正規の MP3 ダウンロードサービスの登場と、それによって日本の音楽をより安価な価格で日本にいながらにして直ちに購入することができる状態の発生は、上記の、麻酔的な法律で対応することができない程度の国内外の差異の発生であると思います。米 Amazon の MP3 Music Store に限らず、これから、より多くの米国のサイトが日本で販売されている音楽をより安価な価格で日本人に向けてダウンロード販売するようになっていくに違いありません。現在の米 Amazon の購入元の IP アドレスを一応確認するという制限がある日突然撤廃される可能性もありますし、そのような制限がない他のサービスがメジャーになるかも知れません。

日本の、日本国内でしか通用しないおかしな保護法で麻酔を打たれたようにして一時的に守られている日本の音楽 CD 流通事業者は、長期的には、このような MP3 の正規のダウンロードサービスに絶対に対抗することはできません。短期的にはおかしな法律でごまかして守られているように見えますが、そのようなおかしな状態を、正常な状態、つまり世界規模でサービスの競争が行われる状態に正すのが、インターネットの役割であると考えることができます。そして、インターネットの上では本来はアクセスしている人の物理的な位置を特定するという概念はないのですが (IP アドレスから、その IP アドレスを利用しているコンピュータを操作している人が物理的に座っている位置を特定することは絶対に不可能です)、現在は便宜的に、その IP アドレスを割当てている NIC の所属国をもとに、利用者の国を判別していることがあります。これにより、本来物理的な場所の制約にとらわれないはずのインターネットサービスを利用する上で制約が生じてしまっており、ゆがんだ形になってしまっています。たとえば米 Amazon の MP3 Music Store は、IP アドレスでアクセス元の国を識別していますので、米国人が米国内から、VPN を用いて日本のサーバーを経由して Amazon にアクセスすると、アクセス元が日本であると誤って識別されてしまい、本来利用できるはずのサービスが利用できなくなってしまいますし、その逆もまた然りです。ですから、IP アドレスを元にして利用者の位置を推定し、それによって何らかのサービス利用の制限をかけるというやり方は間違いです。その間違いが、結構な確率で正確に機能してしまうという現実があり、なかなか正されませんが、現代における VPN の重要な存在意義の 1 つには、IP アドレスと接続元の国との対応関係を断ち切らせるという効果があると思います。近い将来、VPN 技術がより一般的になり、世界中のいろいろな国の IP アドレスを経由して自由にインターネット上のホストに対して通信できるようになる方法が初心者のネットユーザーに対しても利用可能な程度の容易さでかつほぼ無償で提供されるようになったときに、物理的なアクセス元の地域を判別することによる制限をかけるおかしなビジネスモデルはすべて無意味になります。そもそもそのようなビジネスモデルがインターネット上ではもともと成り立たないのです。そういった不自然なビジネスモデルを間違って採用してしまう事業者がこれ以上増加してしまわないようにするためにも、VPN 技術や VPN を用いた IP アドレスを付け替える経由サーバー (昔ながらの匿名プロキシでも良い) がより広く一般的になるまで普及することがあれば大変素晴らしいことだと思います。