筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路であることが判明 (警察庁の公式見解)

筑波大学の構内道路は道路交通法の適用を受けるらしい

警察庁交通規制課長による公式見解によると、なんと、筑波大学の構内道路は道路交通法の適用を受けるということが判明しました。
これまで、筑波大学の道路では、警察署長の許可無しで宿舎祭などの祭事行為を行ったり、一部を祭などのために占有したり、屋台を出したり、ナンバープレートのない実験用の車を走行させたり、公安委員会が実施する交通規制以外の交通規制を学生団体が行ったりしていましたが、上記の見解が正しいとすれば、これからはこのような行為を行うことは刑事罰を伴うペナルティが科せられる可能性があるので、注意しなければならないということになるかも知れません。


なお、「筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路である」という見解を示したのは、私ではなく、警察庁の交通規制課長 ですので、この見解について異議がある方は警察庁に述べてください。
(私は、個人的には、筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路ではないという見解が出ればありがたいと思っていましたが、逆の見解が示されてしまい、残念に思っています。)


また、この、「筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路である」という警察庁の公式見解があったことは、影響力がある話なので、インターネットで公表するのはよくない、という意見もあるかも知れませんが、インターネットでこの公式見解を先に PDF で公表したのは警察庁 であり、私はそれが公表された後にこの記事を書いたということにご留意ください。



警察庁 交通規制課長による公式見解

筑波大学の大学キャンパス内にある大変広大な道路 (学内道路) は、「道路交通法上の道路」なのか否か、いかなる公式機関からも正式な見解が発表されておらず、これまで誰にもわかりませんでした。


ある人は筑波大学の学内道路について「あれは私道なので道路交通法上の道路ではないと思う。だから、道路で無免許の人が運転練習をしても良いし、速度違反をしても警察には捕まらない。それに、宿舎祭などで道路の一部を通行止めにして占有する際にも、警察署長の許可は要らない。」という意見を持っていました。


別の人は筑波大学の学内道路について「あれは大学内の道路といえども、大規模で、大学関係者以外の人も通行しているから、道路交通法上の道路だと思う。だから、無免許で運転練習したり、速度違反したりすれば警察に捕まる可能性もある。また、警察署長の許可がなければ、宿舎祭などで道路の一部を通行止めにして占有するのも違法行為である。」という意見を持っていました。


このように、筑波大学の我々学内等の間には、相互に矛盾し対立する 2 つの意見が長期間存在しており、これは非常に不安定な状態でありましたが、今回、国家公安委員会 (警察庁 交通規制課長) に『法令適用事前確認手続 (いわゆる日本版ノーアクションレター制度)』を利用して照会したところ、以下のような公式見解が回答されました。
(なお、『法令適用事前確認手続 (いわゆる日本版ノーアクションレター制度)』は、民間企業や民間人が官公庁に対して、一部の法令について適用対象となるかどうか回答を請求することができる制度であり、官公庁の側は、請求を受けてから 30 日以内に返答する義務があります。)



上記の回答内容は要点を残し、一部省略したものですが、質問書および回答書の全文は警察庁の Web サイト http://www.npa.go.jp/soumu15/noac-list2.htm に PDF で掲載されています (法令適用事前確認手続によって行われた照会と回答は、誰に対しても公開されることになっています)。


上記の回答内容は、筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路である」国家公安委員会 (警察庁) が公式に判断したということを示すものです。


国家公安委員会 (警察庁) が公式にどのような判断をしようとも、それは単なる行政機関による判断であり、裁判所による判断を拘束することはできませんが、日本の裁判所は一般的に行政機関が公式に行った判断や通達と矛盾する判決を出すことは滅多にありませんので、事実上は、「筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路である」かどうかの不安定な問題はこれで一旦確定したということができるのではないかと思います。

「法令適用事前確認手続」を利用して上記のことを照会した経緯

現在、多くの人が GPS 付きの携帯電話を持ち歩き、かつパケット通信定額プランに加入しています。これを利用すると、道路を運転する人が持つ携帯電話から一定時間おきに中央のサーバーに現在位置を報告し、中央のサーバーがその履歴を計算することにより、各道路の混雑・渋滞状況を計算することができます。過去の曜日ごとの道路の混雑・渋滞状況を記録しておけば、たとえば、「本日の渋滞予想」といった Web ページを作成したり、「最短時間で辿り着くことができる道路」の道程を提示するサービスを提供したりすることができると思い付きました。


このような道路の状態状況の予測サービスを「道路交通法上の道路」で提供するためには、道路交通法第 109 条の 3 (交通情報の提供) に係る事業として国家公安委員会 (警察庁) に届出をしなければならず、届出を怠った場合は刑事罰もあります。しかし、いったん届出をしてしまうと警察庁に対する報告義務などが生じてしまうため、軽々しく届出をすることができません。


そこで、「道路交通法上の道路」以外のある程度の規模がある道路であれば、上記のような届出を警察庁に対して行わなくても良いのではないかと思い、たとえば、筑波大学の構内の道路を対象として上記のような渋滞予測サービスを開発し提供すれば、まずは有用性が実証できるのではないかと考えました。


筑波大学キャンパスには、長さが一周すると約7.1km程度 (支線など、すべての道路の距離を足すと約 13.0km) の道路が敷設されており、大学の関係者や来訪者が自動車で通行したり、関東鉄道バス、JRバスなどの路線バスが乗り入れたりするなど、本格的な道路の様態を呈しています。




しかし、このような筑波大学の構内道路上を対象として、前記の「渋滞予測サービス」を仮に開発、運用する場合において、もし仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路である」ということになれば、サービスを運用した途端に、無届けとして刑事罰が科されてしまいます。


そのため、このようなサービスを検討するにあたっては、筑波大学道路が「道路交通法上の道路である」か否かを非常に慎重に判断しなければならない、という事態に至りました。


その判断をするためには、以下の 2 つの仮説について検討する必要がありました。

仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」と考える場合

筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」と考えることは可能です。
その理由としては、大学外の市道・県道から筑波大学道路に進入する交差点の大学敷地内においては、「関係者以外入構禁止」と記載された標札が設置されていることが挙げられます。これによって、筑波大学道路には関係者以外は進入してはならない旨の制限が付されていることが分かりますので、誰でも通行することができる道路ではないということになり、「道路交通法上の道路に該当しない」という考えが導出されます。



このように、仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」と考えると、たとえば、筑波大学道路内において自動車を運転する際の行為については道路交通法が適用されないこととなるため、自動車を時速数百キロメートルの高速で走行させるなどした場合においても、そのような運転者を刑事罰の対象とすることができなくなってしまいます。
また、筑波大学道路において道路交通法第76条 (禁止行為) に違反する行為を行うことも、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」場合は、道路交通法上の刑事罰の対象となるリスクなく行うことができるようになってしまいます。
このように、仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」と考える場合には、不自然な結果が生じてしまうこととなります。


そのため、これまで、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当しない」と安易に決めつけることができませんでした。

仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」と考える場合

逆に、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」と考えることもやはり可能です。しかし、仮に筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」と考える場合においては、現状と比較して不自然な結果を生じさせてしまいます。

まず、道路交通法第76条 (禁止行為) をみると、以下のような規定があります。

第76条 (禁止行為)
何人も、信号機若しくは道路標識等又はこれらに類似する工作物若しくは物件をみだりに設置してはならない。(罰則: 懲役6ヶ月または罰金10万円以下)
3 何人も、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。(罰則: 懲役3ヶ月または罰金5万円以下)
4 何人も、次の各号に掲げる行為は、してはならない。(罰則: 懲役3ヶ月または罰金5万円以下)
二 道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。(罰則: 罰金5万円以下)

第77条 (道路の使用の許可)
次の各号のいずれかに該当する者は、それぞれ当該各号に掲げる行為について当該行為に係る場所を管轄する警察署長の許可を受けなければならない。(罰則: 懲役3ヶ月または罰金5万円以下)
二 道路に石碑、銅像、広告板、アーチその他これらに類する工作物を設けようとする者
三 場所を移動しないで、道路に露店、屋台店その他これらに類する店を出そうとする者
四 前各号に掲げるもののほか、道路において祭礼行事をし、又はロケーシヨンをする等一般交通に著しい影響を及ぼすような通行の形態若しくは方法により道路を使用する行為又は道路に人が集まり一般交通に著しい影響を及ぼすような行為で、公安委員会が、その土地の道路又は交通の状況により、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るため必要と認めて定めたものをしようとする者


仮に「筑波大学道路が道路交通法上の道路に該当する」場合においては、「信号機若しくは道路標識等又はこれらに類似する工作物若しくは物件をみだりに設置」することは禁止されることになります。これに違反した場合は、懲役6ヶ月または罰金10万円以下の罰則が適用されることになってしまいます。

そうすると、筑波大学が従前より多数、大学道路内に設置している以下の写真のような道路標識に類似する工作物 (都道府県公安委員会が設置する道路交通法上の標識と区別するために「筑波大学」という文字がポール部分に記載されている) は、都道府県公安委員会によって道路交通法第4条 (公安委員会の交通規制) に従って設置されたものではないため、信号機若しくは道路標識等又はこれらに類似する工作物若しくは物件がみだりに設置されていることになってしまいます。



また、筑波大学においては従前より一時的にイベント等がある場合において以下の写真のような案内板などの工作物を大学道路の歩道部分に設置することが多くみとめられますが、これらは第77条 (道路の使用の許可) における警察署長による道路使用の許可を得ることなく実施されている場合もあります。



さらに、筑波大学においては従前より年に数回程度の学生が主体となる祭事などのイベントがあります。



(祭の一部を撮影したものですが、個人が特定できないように処理しております。)


これらの私的な学生が主体となるイベント (たとえば、「筑波大学宿舎祭・通称 やどかり祭」) における主催者は、大学道路の管理者に対しては予め開催の日時・場所・規模などを届け出る決まりになっています (大学内部のルール) が、警察署長に対して正式な道路の使用の許可の申請を行っていない場合が多数であると思われます。


仮に「筑波大学道路が道路交通法上の道路に該当する」とされる場合は、これらのイベントを実施する主催者は、警察署長に対して、事前に第77条 (道路の使用の許可) に基づく許可を申請し、取得しなければならないということになってしまいます。さらに、一部のイベントにおいては、学生が道路における手信号に使用されるような赤い棒状のライトを用いて、大学道路を通行しようとする自動車に対して交通整理を行い、祭事の開催中においてはその場所に自動車が立入らないように防ぐ行為を行っています (さらに、祭事の開催中においてその場所を自動車が通行してはならない旨を主張する案内版のようなものが設置されています) が、これらの学生が行う行為は、第4条 (公安委員会の交通規制) による適法な交通規制ではないということになってしまい、したがって学生が行う私的な交通整理・通行規制などを運転者に求める行為は、第76条 (禁止行為) 第4項第2号における「道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。(罰則: 罰金5万円以下)」に該当することとなってしまいます。


これらのことを考えると、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」とした場合は、現在は警察署長の許可なしで行われている前掲のような筑波大学内における私的な行為を適法にすることができなくなってしまい、これらの行為を筑波大学道路において行うには必ず事前に警察署長の許可を得る必要が生じてしまう (仮に、筑波大学当局が自ら大学道路において何らかの使用行為を行う場合でも毎回警察署長の許可がなければ違法となってしまう) こととなると思われます。
また、道路上において学生等が私的に交通整理を行い、自動車の特定箇所への進入を禁止する行為は、仮に筑波大学道路が道路交通法上の道路であれば一切適法に行うことができなくなってしまいます。
さらに、筑波大学における施設の維持・管理用の自動車の中には、ナンバープレートを付けていない自動車もありますが、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」とした場合は、このような自動車を運転することは第55条 (乗車又は積載の方法) やその他の法律に違反することになってしまうことにもなります。


これらは現状に照らして不自然なのではないかと思いますので、これまで、筑波大学道路が「道路交通法上の道路に該当する」と安易に決めつけることができませんでした。

結論によって生じる影響

今回、国家公安委員会 (警察庁) は公式な見解として、「筑波大学道路が道路交通法上の道路に該当する」と示した訳ですが、この見解が間違いではないということになれば、今後、以下のような行為はできなくなるということになりそうです。

  1. 筑波大学の学内道路 (私道) だからといって、無免許運転による運転練習、速度違反、一時停止違反など、道路交通法を遵守しない行為。(反則金や罰金、点数などが付く可能性がある)


上記によって、交通マナーが大変向上することが予想でき、誰でも、筑波大学の道路をより安全に通行することができるようになるというメリットが期待できます。


しかし、一方、以下のようなデメリットも発生することになるということになります。

  1. 大学内の道路だけを走行する維持管理用の自動車で、ナンバープレートを付けていない車があるが、これにナンバープレートを付け、車検を通さないといけなくなる。それを怠って運転する人は無車検運転として、罰金や運転免許停止処分などの罰を受けることになる。
  2. 都道府県公安委員会以外の者が、筑波大学構内道路に、公安委員会の許可無く道路標識を設置できなくなる。たとえば、大学が設置している道路標識も、形式的には都道府県公安委員会が設置許可したことにしないといけない。(道路交通法第 76 条違反。罰則: 懲役 6 ヶ月または罰金 10 万円以下)
  3. 筑波大学構内道路に、交通の妨害となるような方法で物件をみだりに道路に置いてはならない。たとえば、大学自らが設置する物であっても、交通の妨害となるような物を置いてはいけないということになる。 (道路交通法第 76 条違反。罰則: 懲役 3 ヶ月または罰金 5 万円以下)
  4. 筑波大学構内道路の一部を占有して宿舎祭をしたり、露店、屋台店その他これらに類する店を出す場合は、大学の許可だけではなく、所轄の警察署長の許可も取得してから行わないといけないということになる。 (道路交通法第 77 条違反。罰則: 懲役 3 ヶ月または罰金 5 万円以下)
  5. 筑波大学構内道路の一部で、宿舎祭などの学生団体が、公安委員会の許可を得ずに「右折禁止」というような標識を道路に立てることは、道路交通法第 76 条違反 (罰則: 懲役 6 ヶ月または罰金 10 万円以下) となる。
  6. 筑波大学構内道路の一部で、宿舎祭などの学生団体が、大学の許可を受けた上で、「交通規制」を行うことがある。例えば、宿舎祭の実施期間中に、関鉄バスなどは宿舎エリアに進入することを許可して、それ以外の一般自動車などは宿舎エリアに進入することを禁止する、といった具合である。この際、宿舎祭などの学生団体の構成員が道路の上に立ち止まり、一般自動車が通行しようとするとそれを防ごうとする。しかし、これは「道路において、交通の妨害となるような方法で寝そべり、すわり、しやがみ、又は立ちどまつていること。」(道路交通法第 76 条 4 の二) に該当する行為ということになるので、犯罪行為である (懲役 3 ヶ月または罰金 5 万円以下) ということになる。このような交通規制を筑波大学道路で行う場合には、大学本部がそれを許可するだけでは足らず、茨城県公安委員会に依頼して、公安委員会が指示した警察官のみが交通規制を行うことができる、ということになる。


したがって、我々筑波大学の学生が筑波大学の道路を運転する際には今後さらに十分に気をつけて運転をすることが求められるほか、我々学生が大学の道路で宿舎祭などを実施したりする場合は、勝手に交通規制などをしたり、警察署長の許可なしに一部の場所を占有したり、物を置いたりしないように気をつけるよう注意しなければならないな (違反した場合は懲役を含む罰則の対象となる)、と肝に銘じておきたいと思いました。

最後に

上記のような、これまである特定の事項について、法律が適用されるのか否かがはっきりわからず不安であるということがある場合は、『法令適用事前確認手続 (いわゆる日本版ノーアクションレター制度)』を利用することができる場合は、これを利用してみると良いと思います。


なお、私は、個人的には、筑波大学の構内道路は道路交通法上の道路ではないという見解が出ればありがたいと思っていましたが、逆の見解が示されてしまい、残念に思っています。


筑波大学の構内道路において、前述したような各種学生活動などを行いにくくしてしまうこの警察庁の公式見解について異議がある方は、意見箱 | 警察庁 から意見を送付することができると思います。