市民による筑波大学の松美池でのボート遊びについて

一般市民が筑波大学の公園に立ち入り、公園内の池でボート遊びをすることは、法律的にも慣習 (常識) 的にも差し支え無い。むしろ、それはもともと筑波大学の池の利用目的として想定されていたボート遊びを実施することで池の効用を引き出そうとする、素晴らしい行為である。
筑波大学公園は、国の負担で建設され、供用開始後 40 年間公園として行政主体によって開放されてきた、誰もが利用することができる公共の財産である。この公共の財産の管理を市民によって委託された行政主体である筑波大学は、一般市民がボート遊びをすることを、好き勝手に禁止することはできない。議会によって制定された法令の根拠によらない、そのような好き勝手な規制は、公物管理権・公物警察権の濫用であり、もしそのような規制により、行政主体がボート遊びをする人を強制的に排除・妨害したとしたら、それは憲法違反となる可能性もある。


前回の11 月 9 日の日記では、このような考え方を、いくつかの大学発行の正式な資料等を根拠として述べたが、非常に長くわかりにくい文章となってしまっていたので、改めて再構成し、図を用いて簡潔に説明したい。

上図は、筑波大学公園の特殊事情を示し、それによって発生する、キャンパスに立ち入っている人たちの関係を図式化したものである。この図を見ながら、考えを整理していく。なお、本文中の ① から ⑲ までの番号は、図の中の番号に対応している。

1. 筑波大学キャンパスは、1970 年代から供用されている公共公園であり、誰でも立ち入って一般使用できる。

「①筑波大学のキャンパスの敷地」は、「④建造物及び囲繞地」(以下「建造物部分」という) と「③公園部分」とに分割できる。
「①筑波大学のキャンパスの敷地」は、「②県道・市道」と分離するための柵や門扉で囲まれていない。
「③公園部分」は、筑波大学施設部 1982年4月 P.86筑波大学学生生活課 2011年6月 P.2筑波大学ホームページ などから、1970 年代の開学時から現在まで誰でも自由に立入り利用することができる公園として供用されている。
「③公園部分」には、「⑥車道・歩道 (ペデストリアン)」がある。筑波大学内の「⑥車道・歩道」について、国家公安委員会 2012年1月により警察庁道路交通法上の道路として認めている。筑波大学交通安全会 2008年2月 においては、一般車両が学外から自由に入構できることを大学自ら認めている。
なお、公園部分と異なり、「④建造物及び囲繞地」は、原則として職員や学生のみが立入ることができる。部外者が立入るには、正当理由がなければならない (刑法 第130条)。建造物の管理者は、「④建造物及び囲繞地」の内側にいる人に対して、いつでも、自由に退去を命じることができる。退去命令が出された人は、退去しなければ不退去罪に問われるためである (同条)。

2. 筑波大学公園内の松美池は、ボートやヨット、魚釣りや水遊びなど多角的な利用を目的に設置された池である。

「③公園部分」には、いくつかの池がある。代表例として、「⑪松美池」がある。これらの池は、筑波大学施設部 1982年4月 P.205 により、「ボートやヨット、魚釣りや水遊びなど多角的な利用」を目的として設置された。また、同資料 P.149 によれば、松美池は「人工池」であり、湖畔にあるコンクリートの階段状の構造物は水への接近性を高めるための「池中まで連続するステップ」である旨が記載されている。
したがって、「⑪松美池」は水遊びやボート遊びをするために意図して計画された池であることに間違いはない。

3. 現時点では、筑波大学公園でのボート遊びに際して、事前の許可は不要である。

筑波大学法科大学院講義資料 2013年5月 によれば、国立大学法人は行政主体の一つである。同様の記述が、立命館大学法学部講義資料流通経済大学講義資料 などにみられる。そして、筑波大学国立大学法人である (国立大学法人法)。したがって、筑波大学が一般市民に対して開放している公園部分を管理する際は、行政主体としてその権限を行使する。
筑波大学が行政主体として一般公衆への供用を開始した後の「③筑波大学公園」は、慣習法にいう公共用物である (立命館大学法学部講義資料東北学院大学講義資料)。公共用物には、「一般使用」、「許可使用」、「特許使用」の 3 種類の利用形態がある。「一般使用」は許可を必要としない利用方法で、「道路の通行や河川の就航、公園の散策など」が含まれる。公共用物はその種類によって一般使用の用途が異なる。公共用物法理論の再構成 早稲田大学大学院法学研究科 権奇法によれば、「道路の通行や河川の就航、公園の散策など」が一般使用の一例である。
「③筑波大学公園」のうち「⑥車道・歩道」を「⑨徒歩」・「⑩自転車」・「⑦自動車」等で通行することは、一般使用である。道路部分以外を徒歩で「⑨散歩」すること、および、池で「⑫水遊び」、「⑬ボート遊び」、「⑭魚釣り」をすることも、一般使用である。これらは常識的に正しいだけではなく、大学自らが池について、筑波大学施設部 1982年4月 P.205 により「ボートやヨット、魚釣りや水遊びなど多角的な利用」を目的として設置されたと説明していることからみても、妥当であるといえる。
公共用物法理により、一般使用においては許可が必要ない。ボート遊びは、池の中に構造物を立てたり、ボートを一箇所に固定して動かせなくしたりしない限り、占用にはあたらないため、許可が不要である。
現時点では、筑波大学は公物管理権によって池の利用形態のうち「⑫水遊び」、「⑬ボート遊び」、「⑭魚釣り」などを禁止していない。
よって、現在、筑波大学公園でのボート遊びに際しては、事前の許可は不要である。

4. 松美池でボート遊びを行うときには、他の船舶に注意しなければならない。

軽犯罪法によると、「みだりに船又はいかだを水路に放置し、その他水路の交通を妨げるような行為」、「川、みぞその他の水路の流通を妨げるような行為をした者」は禁止されている。ある人が松美池で「⑬ボート遊び」をするとき、松美池を水路として利用する「⑮他のボートや船舶」の運行を妨害してはならない。
公園の池の無許可利用は一般使用のみに限定されるから、当然、他の利用者の利用を妨げない範囲でのみ利用しなければならない。松美池でボート遊びをするとき、「⑮他のボートや船舶」がなく、また池で「⑫水遊び」や「⑭魚釣り」などをしている人がいない場合は、他者の池の利用を妨害するおそれはない。もし松美池に他にも利用者がいれば、「⑮ゆずり合い」を行ってお互いに円滑に利用することが大切である。
将来、松美池に多数の船舶が跋扈しひしめくようになった場合は、使用者同士で「松美池湾岸管理組合」などの任意団体を設立して、ルールを話し合うことが望ましい。
または、「⑤筑波大学公園の管理者」と相談し、港湾法 によって国か地方公共団体 (つくば市または茨城県) に対して「港湾局の設立」を求める方法もある。定款を定め、港務局が設立された場合は、港湾の管理権は港務局に移動するため、すべての船舶はこれに従って松美池を利用する義務が生じる。

5. 筑波大学が、将来、好き勝手に公園の池の本来の利用目的の一部を規制すれば、それは憲法違反である。

日本は、自由民主政体であるため、行政主体が市民に義務を課し、または権利を制限するには、法律や地方条例の規定が必要である (憲法第 13 条、第 21 条、第 41 条他)。
もともと、行政主体でない私人が、自己の土地を通行・利用しようとする人に対して規制を行うことは自由である。これは施設管理権と呼ばれる。施設管理権は土地の所有・占有に基づく権利で、自分の土地に対して自由に行使できるのは当然のことである。
同様に、行政主体は公共用物に対しての施設管理権である「公物管理権」・「公物警察権」を行使することができる。ただし、この際には、本来の公共用物の想定されている用途での利用を損なわない範囲でこれを行使しなければならない (公共用物法理論の再構成)。行政主体が自己の土地を管理する場合、普段立入りを制限している建造物に対する施設管理権は一般私人と同様に行使できる。しかし、公園として一般使用目的で供用されている囲繞地でない開放された土地を日常的に通行・利用する市民の行為を、本来の一般使用目的を阻害するような形で、私有地と同様に施設管理権を持ち出して好き勝手に規制することは、行政主体の独断では許されない。日本では、行政主体がそのような勇み足をすることを規制するために、国会議員のみが立法権を有している。
たとえば、茨城県は県道を所有管理しているが、何らかの理由で県道の一部を通行規制しようとする時は、勝手に規制を行ってはならない。道路交通法に基づく警察署長からの許可が必要である。これは、有権者が選出した国会議員が成立させた道路交通法によって市民の権利を制限するというプロセスを踏んでいる。

一般の国立大学 (東京大学など) について考えてみると、これらのキャンパスは囲繞地であり、最初から一般市民の使用を制限している。したがって、キャンパスの屋外部分であってもそれらは「公共用物」にはあたらない。私有地と同じように管理者が好き勝手にコントロールすることができる。一般の国立大学が自己のキャンパス内での利用行為を規制する際には、その大学の制定する学則などのローカル・ルールで足りる。法律や地方条例を制定する必要はない。
一方、筑波大学は、これまで述べた特殊事情 (キャンパスが公園として 40 年前から供用されていること) から、「⑤公共用物である大学公園の管理者」の立場としては、「行政主体」とみなされ、一般の道路や公園などの管理者と同様に取り扱われる。行政主体は、法律の根拠なく、一般市民の行為を規制することはできない (憲法第 13 条、第 21 条、第 41 条他)。たとえ筑波大学自身が所有管理している土地であっても、「③公園部分」はいったん公共用物として一般公衆への供与が開始されている場所であるから、この部分を通行したり一般使用したりする市民の行為を制限することは、何らかの法律上の根拠を必要とする。
筑波大学公園のうち道路部分 (ループ道路、ペデストリアン) は、行政主体が 道路交通法 によって規制することができる (国家公安委員会 2012年1月付け文書)。したがって、一般市民が筑波大学内にある道路を通行以外の目的で使用する場合は、警察署長からの「⑲道路使用許可」が必要である。たとえば、道路部分で「⑧集会やデモ行進」を行う場合には、警察署長による「⑲道路使用許可」が必要である。無許可集会利用が禁止されていることについては、我々が選出した議員が可決した道路交通法の規定で、我々市民の権利に対して公共の福祉のために最低限の規制を課しているのだから、これは正当な規制であり、憲法違反ではない。
これと異なり、「松美池」は明らかに道路ではない。ペデストリアンで自転車を漕ぐときには道路交通法の規制を受けるが、松美池でボートを漕ぐときには道路交通法は無関係である。だから、行政主体は「松美池」を道路交通法で規制することはできない。
松美池を水路であると考えることもできるかも知れない。一般に、河川や大きな湖 (霞ヶ浦など) などの水路は、河川法 の適用を受ける場合がある。この場合、市民が水路を利用する際には、水路管理者である行政主体が管理権を行使して市民の権利を制限することが認められている。しかし、「松美池」は河川法の河川に該当しないので、河川法による規制を行うことはできない。
松美池を都市公園法による「都市公園」として規制することはできるか。もし筑波大学公園が都市公園であるならば、第 11 条 (禁止行為)、都市公園法施行令 第 18 条 (禁止行為) により、「公園管理者が指定した立入禁止区域内に立ち入ること」を規制できる。この規定を利用すれば、筑波大学は松美池を「立入禁止区域」として指定することでボート遊びを禁止することができることになる。しかし、そもそも都市公園の範囲は、同法第 2 条で規定されている。残念ながら、筑波大学公園はこの定義にあてはまらないから、都市公園法による規制をすることはできない。

上記のように、筑波大学公園のうち池の部分は、公園であるけれども都市公園法による規制をすることができず、水路であるとしても河川法による規制をすることができない。その他に、池の利用方法について規制を行う法的根拠はない。
したがって、「⑤行政主体としての筑波大学」は、一般に供用されている筑波大学公園のうち「⑪池」の利用行為について、好き勝手に規制することはできない。また、ボート遊びをする人に対して、「⑰禁止命令」のような命令を出すこともできない。「公共用の施設については、その施設や趣旨や憲法の人権尊重や平等原則の要請から、利用者の基本的な利用の自由を害し、公正な利用の自由を妨げるような管理権の行使が許されないことはいうまでもない」(公共用物法理論の再構成 P.268 より)。そのような規制や禁止命令を、国の行政主体である筑波大学が議会を通さずに行い、よって一般市民の公共用物に対する本来の利用を排除することは、勇み足であり、権限を逸脱している。これは行政主体が暴走して勝手なルールを作り市民の行動を規制していることに該当し、自由民主政体においては最も恥じるべき憲法違反 (憲法第 13 条、第 21 条、第 41 条) 行為となる。
このことは、皇居外苑使用不許可事件最高裁判決でも、

公共福祉用財産をいかなる態様及び程度において国民に利用せしめるかは右管理権の内容であるが、勿論その利用の許否は、その利用が公共福祉用財産の、公共の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであり、若しその行使を誤り、国民の利用を妨げるにおいては、違法たるを免れないと解さなければならない。

と述べられ、また、

管理権に名を藉り、実質上表現の自由又は団体行動権を制限するの目的に出でた場合は勿論、管理権の適正な行使を誤り、ために実質上これらの基本的人権を侵害したと認められうるに至つた場合には、違憲の問題が生じうる

と述べられている。

行政主体としての筑波大学は、公共用物である公園や池の本来の目的であるボートやヨット、魚釣りや水遊びなど多角的な利用 (大学自らが池について筑波大学施設部 1982年4月 P.205 により「ボートやヨット、魚釣りや水遊びなど多角的な利用」を目的として設置されたと説明している) での利用が可能な状態に維持する責任を負っている。これとは逆に、筑波大学がそのような多角的な利用のうち、一部分を制限するような方法で、公物管理権を濫用することは、国民によって筑波大学に与えられている公物管理権の目的に真っ向から反することになり、「違憲の問題が生じうる」。
もし、どうしても池でのボート遊びを規制をしたいのであれば、正しい手続きとしては、筑波大学公園の地位を「都市公園」に移行してから松美池を「立入禁止区域」として指定するべきである。ただし、筑波大学公園を「都市公園」にした場合は、逆に筑波大学側の義務が増えたり、権限が減ったりする問題がある (たとえば、国が設置する都市公園ということにした場合は、公園部分の管理権は筑波大学から離れ、自動的に国土交通大臣が管理者となってしまう。同法第 2 条の 3)。なお、たとえ筑波大学公園を「都市公園」として規制しようとしても、池におけるボート遊びを規制するためには、正当な理由が必要である。池でボート遊びを規制するために立入禁止区域を設定する行為は、行政処分であるから、処分取消しのための異議申立て、不服審査、訴訟の対象となる (皇居外苑使用不許可事件最高裁判決)。
または、筑波大学公園のうち池の部分の公園機能を廃止することもできる。たとえば、柵で池を取り囲んで「ここは公園ではないので立入りできない」という看板を取付けることで廃止できる。公園機能が廃止された場合は、当然、池にボートを浮かべるにはいちいち大学の許可を得る必要が生じる。ただし、国有財産法の第 13 条によると、いったん公園として供用している国有財産の公園機能を廃止する場合には、国会の議決を経なければならない (財産の価格が 1.5 億円以下で、かつ年間に国全体で 15 億円に達する分までは国会の決議は不要) こととなっている。国立大学法人化する前の筑波大学の公園は国有財産であったので、この規制が適用され、大学は勝手に公園を廃止することができなかった。国立大学法人化された後にこの規定が適用されるべきであるかどうかは、要調査である。

6. 筑波大学がローカル・ルールで大学建物中の行為を規制することは、違法ではない。

最後に、5 で述べた理論は、あくまでも、大学キャンパスの中の「③公園部分」にのみ通用する理論であるので、注意しなければならない。筑波大学の公園部分は、一般供用されている公共用物であるため、大学自身といえどもこの公園部分を好き勝手に規制することはできないというものである。
一方、大学キャンパス内の「④建造物及び囲繞地」では 5 で述べた理論は通用しない。たとえば、筑波大学は自由に 法人規則 を設けて建物内における学生や職員の行為を規制することができる。「④建造物及び囲繞地」は一般使用を目的に供用されている公共用物ではないから、建物を利用している学生や職員と大学との関係は、私人同士の契約関係 (教育役務提供契約、雇用契約) であり、行政主体としての筑波大学の立場は登場しない。また、刑法 第130条 によって建造物及び囲繞地においては、いつでも管理者が内部の人間に対して退去命令を出すことができる。大学は自分の敷地内にある建物を好き勝手に管理することができ、命令に従わない学生や職員を退出させたり、懲戒や解雇をしたりすることもできる。これらのローカル・ルールは、もともと建物に立入ることができない一般市民の行動を規制することにはならないため、憲法違反にはあたらない。