日本国政府は納税者サービスにおいて外国政府との競争に勝たなければならない

上記の理論と類似するものとして、以下のように考えることもできる。
たとえば、政府の言うことを盲目的に強制される納税者に対しては、政府は、当該政府がこれから行おうとする強制的な指示 (たとえば税金をいくら徴収する、といった、納税者に対して何らかの労働を強制するような指示) とそれによる政府の公共投資について、仮に、その政府の公共投資が失敗し、損失が出たとしても、納税者に対しては、損失が生じた分の税金の金額と少なくとも同等またはそれ以上の金額を、後から損失補填として穴埋めするだけの十分な支払が保証されていなければならない。
なぜならば、先ほどの「労働者」と「経営者」との関係と異なり、少なくとも、国内においては、「納税者」と「政府」との関係は、強制的だからである。
「労働者」は「経営者」の信用能力や支払い額が気に入らないと思ったら、別の「経営者」のところへ行けば良い。しかし、国内においては、「納税者」は「政府」の信用能力や支払い額が気に入らないと思ったら (たとえば、たくさん税金を納めているのに、あまり良いサービスが受けられず、そのサービス価格を合理的に計算すると、損しているように見える、など)、他の「政府」のところへ行けば良い、ということにはならない。
なぜならば、政府は同一国において 1 個しか存在しないからである (ただし、最近では、結構簡単に好きな国へ移住することができるようになったので、これはあてはまらないかも知れない)。
政府は、納税者に対して、納税 (=指示通りに税金を拠出すること) を強制しているのであるから、少なくとも、納税者に対して、納税した額以上の見返りを提供する義務がある。そうしなければ、納税者は、納税する意味が無いためである。


昨今、日本における産業空洞化が話題になっているが、一般的には、海外国における労働力が安価だとか、資源の調達コストが低いとか、円高だというような理由で、生産拠点を海外に移す動きが原因だということになっている。


しかし、もしそうだとしたら、「そもそも単純労働者はほとんど不要」で、「資源もあまり消費しない」上に「外国為替の影響も少ない」ような産業については、無関係だということになる。たとえば、少人数で開発したり運営したりすることができるソフトウェアやインターネット事業などである。しかし、明らかに、近年、これらの知能産業 (上記においていえば、自分の頭で合理的に考えることが特に重要な産業) に関わっている優秀な頭脳が海外に流出しているか、またはこれから流出しようとしている傾向が感じられる。


その理由は単に海外国における労働力が安価だとか、資源の調達コストが低いとか、円高だというような理由だけではなく、もっと根本的なところにおいては、前述のような、人間の行動指針を決定する根本的ないくつかの原理に反する行為を政府や政治が行っており、さらに、今後ますますその傾向が酷くなりそうだという状況が原因である可能性がある。


「なぜならば、政府は同一国において 1 個しか存在しないからである (ただし、最近では、結構簡単に好きな国へ移住することができるようになったので、これはあてはまらないかも知れない)。政府は、納税者に対して、納税 (=指示通りに税金を拠出すること) を強制しているのであるから、少なくとも、納税者に対して、納税した額以上の見返りを提供する義務がある。そうしなければ、納税者は、納税する意味が無いためである。」と上述したが、現在、日本の政府は、このように、納税者にとって、「納税額あたりの政府から受けることができるサービスの価値」を高める努力をしているだろうか。
高める努力をしている政治家もいるかも知れないが、結果として、「納税額あたりの政府から受けることができるサービスの価値」はあまり高まっておらず、外国政府のほうが高くなっている場合がある。
その場合、納税者は、当然、「最も安く政府サービスを購入できる」という理由から、外国政府の基に流れていく可能性がある。特に、重工業や物理的なサービス業ではなく、知能労働的なサービス業から、その傾向が強くなると思われる。なぜなら、知能労働的なサービス業は、電力と通信回線、および必要最低限の治安が確立されていれば、世界中どこでも事業を行うことができるためである。さらに、重工業や物理的なサービス業は過酷な競争によって利益率が低下しているが、これと比較すると、知能労働的なサービス業は、利益率が比較的高い。税金は、利益からしか取れないので、知能労働的なサービス業がますます世界における重要度を増していく中で、それらが流出することは、日本政府の財源を悪化させる原因となる。


もし、日本政府に携わっている人が、合理的な判断を行う能力があるのであれば、特に外国政府の基に流出しやすい知能労働的なサービス業の経営者にとって、それらが流出せず日本国内において事業を継続してもらえるように何とかして必死に頼み込み、また、外国政府の基に流出することと比較して、日本国内に留まったほうが良いという何らかの合理的なインセンティブをそれらの事業者に対して提示する必要がある。