法人税を累進課税 (1 人あたり税引前利益で計算) にするとどうなるか

思いついたこと

ふと思いついたことですが、日本の法人税率は長い間、利益の額にかかわらず一定 (30%) となっていますが、これを所得税のような累進課税的な制度にすることはできるのでしょうか。
また、その場合は、どのような事が起こるのでしょうか。

現状

所得税は、勤労者であれば誰でも知っているとおり、累進課税制度になっています (http://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/2260.htm)。これは不公平だと言って異議を唱える人もいると思いますが、私は別に所得税累進課税で良いのではないかと思います。

これに対して、法人税は原則として利益の額にかかわらず 30% となっています (いくつか例外の制度ははありますが。たとえば大会社以外は、800万円以下の部分については 22% となっています。あれっ、じゃあ会社を複数に分割すれば安くなる?) 。

法人の利益の額だけを見て累進課税すると変なことになる

法人税を仮に累進課税にするとしたところで、単に法人の利益の額をもとに累進計算すると、おかしな話になります。
たとえば社員が 3 人程度で利益が 1,000 万円出ている企業と、社員が 30,000 人程度で利益が 100 億円出ている企業について、単純にその法人の利益の額をもとに累進計算するのは不公平かと思います。このような例では、明らかに社員が 3 人程度で利益が 1,000 万円出ている企業のほうから高い税率の税金を取ることが望ましいと思います。

法人税率の累進税率計算方法

そこで、法人税の累進計算にあたっては、その法人の利益の額ではなく、利益の額を社員数 (当該年度の平均社員数。パートタイムの者については労働時間・出勤頻度に応じて時間割り計算し、フルタイムの者の人数に変換して計算する。たとえば週 2 日のみ勤務する者は 0.4 人とする。) で割った結果の金額を基準額として用いることにする という考えではどうでしょうか。

この計算では、社員が 3 人程度で利益が 1,000 万円出ている企業については 333 万円が基準額、社員が 30,000 人程度で利益が 100 億円出ている企業については 33 万円が基準額となります。この基準額に応じて、所得税と似たような仕組みで累進課税計算し、法人税を徴収するという形であれば、法人税にも累進課税制度を導入できそうです。
たとえば、1 人あたり 2.4 億円の利益を出している任天堂と、1 人あたり 256 万円しか利益を出していないトヨタ自動車とが画一的に同じ法人税率 (30%) を課税されているというような状態が緩和できます。


このような計算であれば、税務システムの導入は比較的容易かと思います。法人ごとの利益の金額は当然税務署に対して各企業により申告されていますし、各企業の毎月の社員数等も、パートタイムの社員の分を含めて、源泉徴収の報告書によって税務署が把握しているので、あとは、各社員の実質人数 (1.0 人なのか、0.4 人なのかといったこと) を申告させ計算すれば良いのでしょう。


影響

仮に上記のように法人税にも累進課税制度 (税率を 1 人あたり税引前利益で累進課税計算) を導入することとなった場合、社会においてどのような良いことが起きるのか考えてみました。

  1. 企業の社員数や売上高にかかわらず、社員 1 人あたりの利益の額 (基準額) が良い企業がたくさん納税し、悪い企業は利益が出ていてもあまり納税しなくて良いということになる。たとえば、2008年度で見れば、ソフトイーサ社であれば基準額 (1 人あたり税引前利益) は約 418 万円程度であり、中くらいの法人税率となり、税負担が高くなる (例: 30%)。不況に苦しむトヨタ自動車 (単体) であれば基準額 (1 人あたり税引前利益) は約 256 万円程度なので、低い法人税率となり、税負担が軽くなる (例: 10%)。ちなみに任天堂であれば基準額 (1 人あたり税引前利益) は約 24,371 万円程度になり、非常に高い法人税率となる (例: 50%)。(任天堂はすごい)
  2. そうすると、とても儲かっている法人は損をするように思えるが、そのような法人は、社員を増加させ (または解雇しないようにし) 社員 1 人あたり利益率を下げれば節税することができるということになる。すると、儲かっている企業は、「何もしないで高税率の税金を払う」か、「社員数を増やして 1 人あたり利益を薄めて税率を低くし税引き後利益を増やす」かを選択することになる。
  3. 一見すると、企業が節税のため、無能な社員を多く雇うと、有能な社員が本来受け取れるべき正当な報酬が減額されるのではないかという懸念が生じ、有能な社員のモチベーションが低下するかも知れない。しかし、どの社員にいくらの賃金を支払うかという決定は、その企業が、法の範囲内で自由に決定することができる事項である。節税のためには社員数を増やせば良いのだから、増やした社員のうち無能であると評価した者については、解雇せずに、労働法規に定めのある最低賃金またはそれを若干上回る程度の給与 (月収 20 万円など) を支払えば良い。
  4. すると、企業は不要になった社員を解雇するよりも、不要になった社員にある程度の最低限の給与を支払い続けたほうが、社員 1 人あたりの利益の額 (基準額) が低くなるので、累進課税法人税の節約になる。累進課税法人税の節約分が、その社員に対して支払う給与等のコストを上回る間は、企業は社員を雇い続けようと努力することになる。また、社員を無数に増加させればいくらでも節税できるというものではなく、ある一定人数を超えるとそもそも給与の額がかさんで赤字になり節税の意味が無いので、一応は企業の業績に応じて相応の人数を定員数とする必要があり、社員間の競争がゼロになることはないので、本当に無能な者は解雇されるという制約は残り、社員はある程度は真面目に働くことが期待できる。
  5. これにより、一種のワークシェアリングのようなことが、多くの企業で無理なく自然発生するので、雇用機会が増加する。あまり能率の良くない社員についても、企業は現在のように簡単には解雇せずに、最低賃金またはそれを若干上回る程度の給与 (月収 20 万円など) を支払い続けたほうが法人税が安くなるというメリットを受けることができる。社員については、解雇され生活に困る者の数が減り、個人消費が増加し、循環作用により社会全体がより豊かになる。
  6. 一部のソフトウェア開発業や金融サービス業など、少人数で大きな利益を挙げることができる企業 (ベンチャー企業等) からは、不満が出る可能性はあるが、そのような企業はこれまでどおり、少人数のまま維持して大きな利益を生み続ければ良い。そういったベンチャー企業等は 1 人あたり利益 (基準額) が高くなるので法人税率が高くなるが、そもそも個人において所得の再分配が容認されている社会であるので、法人にもそのルールを適用しようとするのがこの趣旨だから、それはやむを得ないことである。また、そういった企業でも、すぐには役に立たないかも知れないというリスクをとりつつ、多数の者を新規雇用することで、若干節税でき、かつ、それにより雇用された者の生活は安定するから、社会にとっては良い効果を生む。


なお、上記のメリット以外にも、メリットまたはデメリットがあると思います。
上記のような制度になると、社員は解雇されにくく、また不況という一個人ではどうしようもない要因でリストラに遭って無収入になるという災難に陥りにくくなるため、特に能力等に秀でた者以外の普通の人であっても一生涯何らかの仕事につくことができるので、安心して生活を営むことができるようになる、というメリットを受けます。
しかし、配当利益が減少する投資家は当初はデメリットを受けるでしょう。それでも長期的にみて個人消費が増え社会が成長すればやはりメリットを受けることになるのではないかということもできると思います。