ダウンロード、海賊版は禁止 政府、著作権法改正を検討

ダウンロード、海賊版は禁止 政府、著作権法改正を検討
http://www.asahi.com/national/update/1123/TKY200611230288.html

音楽や映像を違法コピーした「海賊版」をインターネット上からダウンロードすることを全面的に禁止する著作権法改正に着手する。27日に開く知財本部コンテンツ専門調査会に事務局案を提案。罰則も設け、08年通常国会に提出をめざしている改正案に盛り込む。
現行の著作権法では、著作権者の承諾なしに複製したコンテンツをネット上に流すことは違法だが、違法コピーをダウンロードしても、個人で利用する限りは著作権の侵害とはならない。このため、ネット上で違法コピーを入手する行為が横行しても、規制するのは極めて困難だ。
海賊版のダウンロードが違法であることを明確にすることでその流通を減らし、コンテンツ産業を成長分野に育てたい考えだ。

上記のニュースでは、音楽や映像を違法コピーした海賊版をインターネット上からダウンロードすることを全面的に禁止する と書いてあるが、なぜ「音楽や映像」に限定するのだろうか。こういうことをやるのならば、コンピュータプログラム も同じように扱って欲しいと思う。


ところで、上記のニュースにあるような法律は、現実的な運用面から見ると結構厳しいのではないかと思う。


個人が違法ファイルをダウンロードすることを禁止するということに実効性を持たせるには、具体的には、規制内容として以下の 3 種類の方法が考えられると思う。


違法ファイルをダウンロードすること自体を禁止する方法

インターネット上の通信では、大抵の場合、ファイル (音楽なり映像なり) を実際にダウンロード (取得) してみないと、その内容が違法にアップロードされたものなのか、もしくは適法なコンテンツなのかを判別することは不可能だ。ダウンロード前に、その取得しようとしているファイルに「違法 / 適法」というフラグを HTTP の拡張ヘッダか何かで付けてやれば話は別だが、現状は、ファイル名の文字列などからある程度推測できるとはしても、厳密には、ダウンロードしてから、そのファイルが違法アップロードされたものであることがわかるのであって、ダウンロード前にはそのファイルは違法なものか適法なものか判別する方法は無い ということになる。


もし、例えばファイルを HTTP からダウンロードするとして、そのファイルの名前やリンクの文字列が海賊版の著作物っぽい文字列になっていて、これは海賊版のコンテンツなのではないかと事前に判断したにもかかわらず、ダウンロードしてしまった場合、その行為を違法とするのであれば、リンクの文字列のところに「合法」だとか「許諾済み」だとか書いてあるような、違法なファイルのアップロードサイトがあったとして、それを信頼してダウンロードする行為は適法となってしまい、この法律の意味が無い。


それに、ファイル名やリンク文字列などが明らかに 「違法」 とか海賊版!」とか書いてあれば、そのファイルは違法にアップロードされたものなのだなということは事前に推測できるが、そうでない場合、例えば Microsoft のソフトウェアように、あるソフトウェアは再配布禁止、あるソフトウェア再配布可能というようになっていて、再配布の可否がソフトウェア名を見るだけでは判別しにくい物である場合 は、そのファイル名やリンク文字列などを見るだけで、一般のインターネットユーザーは、事前にそれをダウンロードするべきか否かを判断することは非常に困難である。


たとえば以下の 3 つのファイルがアップロードされている HTTP サイトがあったとする。

  1. Microsoft_Windows_XP_Professional_Edition.zip
  2. Microsoft_DirectX_9.0_Runtime_Library.zip
  3. Microsoft_Visual_Studio_6.0.zip

上記のサイトのうち、たぶん Microsoft の現在の一般向けの EULA では、1 番と 3 番は再配布が許諾されていないが、2 番は再配布が許諾されている。
したがって、2 番をダウンロードするのは合法だが、1 番と 3 番をダウンロードするのは違法だということになってしまう。


違法アップロードされたファイルであることを知らずに 1 番と 3 番を、2 番と同様にダウンロードしてしまった場合、それについて後から故意にダウンロードしたのではないかと追求されてしまう可能性がある。


これを避けるためには、安全のために、事前に Microsoft のサイトなどで情報を入手したり、専門家に聞いたりするなどして、上記の例のうち 2 番のものは一般に再配布が可能で、1 番と 3 番は不可能であるという使用許諾条件を調査する必要がある。しかし日本国内の全インターネットユーザーがわざわざファイルをダウンロードする前にそういった安全のための調査を行うということは現実的ではない。


ダウンロードしたファイルを違法と知りながら所持し続けることを禁止する方法

上記のように、ファイルをダウンロードする前から、そのファイルが違法アップロードされたものか否かを知るのは困難 であるとすれば、これを規制する意味や実効性は薄れるので、別の方法として、ファイルをダウンロードした後、そのファイルが違法ファイルであると知りながら所持し続けることを禁止する というような規制を行うことが考えられる。
つまり、あるファイルをダウンロードしてみて、そのファイルの中身を実際に確認して (音楽・ビデオコンテンツであれば閲覧してみて、ソフトウェアであれば実行してみて) から、そのファイルは違法にアップロードされたものなのではないかと判断した段階でそのファイルを削除すべきであるとし、もしそのファイルを削除せずに意図的に所持し続けることを違法とするということである。


ところが、これはこれで結構難しい。


まず、YouTube などの能動的なダウンロードを伴わないビデオコンテンツサイト等 の場合は、「ファイルをダウンロードする」、つまり「受信する」行為を行うのは、実際にそのビデオコンテンツを閲覧することと同時に行う。当然、その著作物が違法にアップロードされたものであるかどうかを判別することができるのは、閲覧を開始した後であり、すでにその時点ではダウンロードは開始されてしまっている。それに、YouTube などのコンテンツは、大抵は 1 度だけ見ればそれで満足する ものであるので (中にはコンピュータに取り込んで保存しておきたいものもあるかも知れないが)、最初に「そのファイルが違法ファイルかどうかを確認する行為」を行うとともに、コンテンツを閲覧するということによる満足は自動的に得られてしまう。YouTube だけではなくほとんどのビデオストリーミングサイトのコンテンツについてそのようなことが言える。


次に、ダウンロードしたファイルが、本当に違法アップロードされたファイルであるかどうかは、ダウンロードが完了した後も、一般ユーザーが判別することは困難である という問題がある。例えばあるビデオファイルをインターネットからダウンロードしたとして、そのファイルが、著作権者に無断でアップロードされたものなのか、それとも著作権者の許諾を得てアップロードされたものなのか ということを判別することは極めて困難である。
唯一ほぼ確実な方法としては、そのファイルの著作権者であると思われる個人なり会社なりに連絡をしてみて、「ファイルをインターネットからダウンロードしたが、そのファイルは違法にアップロードされたものなのか、それともあなたの許諾を得てアップロードされたものなのか。もし、あなたの許諾を得てアップロードされたものであれば、構わず保存し続けるし、そうでなければ削除しようと思う。」というように問い合わせるという方法がある。
しかし、多くのインターネットユーザーがわざわざこのような問い合わせを著作権者に対して行わないと、そのファイルが違法か適法かを確認できないので、ファイルを所有し続けること自体がリスクがあるとすれば、個人がインターネットを気軽に利用することは不可能になってしまう。
また、各利用者がこのような問い合わせを、著作権者 (たとえばテレビ局や番組制作会社など) に個別に行うと、その会社の電話はパンクしてしまい、現実的ではない。


「適法である」という宣言文が付いていないファイルの所持を禁止する方法

では、最後に、ダウンロードしたファイルの中に、「このファイルは著作権者の許諾を得てアップロードしたものであり、違法なものではない」と明記されているファイルのみの所有を許可し、それ以外のダウンロードしたファイルすべての所有を違法とするという方法を考えてみる。
この方法は一見して実効性がありそうだが、実際にはすぐに破綻するのではないかと思う。


ファイルを違法アップロードする者は、もともと遵法意識などは無いはずだから、違法なファイルでも、「このファイルは著作権者の許諾を得てアップロードしたものであり、違法なものではない」という嘘の文章を挿入するであろう。そうすると、そのファイルをダウンロードした善意の第三者は、そのファイルの所持をし続けても良いということになってしまう。これでは規制の意味が無い。


それでは、インターネットにアップロードする全ファイルに 電子署名を義務付け、例えば VeriSign 社や国家機関などの組織が「合法だ」と確認したファイルのみにデジタル署名し、デジタル署名が付いていないファイルのダウンロードや所持は違法とする という方法はどうだろうか。この方法は小規模であればそれなりにうまくいくかも知れないが、インターネット上でダウンロード可能になっている多数のファイル (特に海外サイトなどを中心とする大量のフリーソフトウェアなど) についてこの確認作業を正確かつ迅速に行うことは極めて難しく、現実的ではない。


以上のような考えで、違法なファイルのアップロードを禁止することは現行法でできているとしても、それをダウンロードすること、もしくは所持することを禁止することは、具体的にはなかなか難しいのではないかと思う。やはり一番良いのは ファイルのハッシュか何かで違法ファイルのブラックリストを作り、Web ブラウザか OS などにダウンロードしたファイルのハッシュのブラックリストチェックを義務付ける という方法かも知れない。しかし、ファイルを 1 bit でも変更すればハッシュは合わなくなるので、やはり難しい。