携帯電話を用いたカンニングを業務妨害罪の容疑で刑事責任追及することの問題点その2

昨日、携帯電話を用いたカンニングを業務妨害罪の容疑で刑事責任追及することの問題点 を書いたが、その後、今回の事件についてより詳しく調べたり、他の意見を読んだりしたところ、新たに以下のような考えが思い付いたので、覚え書きとして書いておこう。


まず、昨日の日記にも書いたように、今回の件がもし起訴・有罪になったとしたら、その理由は以下のような 3 つのうちいずれか、またはその組み合わせとなるのではないかと思う。

  • 理由 1. 受験生として公平・公正に受験すべきところ、試験時間中にカンニングを行い、本来解く能力がなかった出題について、自分の力で正答したように装った。これによって、公平・公正な入学試験の実施を妨害した。
  • 理由 2. 試験時間中に、その時点では非公開である出題文についてインターネットに投稿し、これが事後に騒ぎとなり、よって大学が対応や不正行為者の特定などの本来であれば行う必要がなかったはずの業務が妨害された。
  • 理由 3. 上記 1 または 2 の理由に加えて、結果的に社会的な大規模な騒動となり、どうしても捜査・検挙しなければならない空気になってしまった。


それで、理由 3. はあってはならない事で論外として、理由 1 と理由 2 について、もしこれが理由だということにすれば、以下のようなことになるのではないかと思う。

理由 1: カンニング行為自体が業務妨害罪だという説が正しいとするとこうなる

今回はいくつかの大学の入学試験のカンニングが問題になったのだが、もし、そのカンニングの事実や行為者がほぼ正確に発覚したために警察がそのカンニング実施者を逮捕して、検察が起訴し、裁判で有罪になったという前例を作ると、同等のカンニング行為はすべて刑事罰の対象だということになってしまう。
大学の入学試験でカンニングをすることが業務妨害であれば、大学の入学後の学位を授与するかどうかを決定する試験でも、高校の入試でも、中学入試でもカンニング業務妨害罪だということになる (でも、確か 13 歳以下は刑事事件では有罪に問われなかったんだっけ)。それだけではなく、資格試験や、運転免許試験、企業の実施する入社試験なども同様である。京大の入試だから重要なのでカンニングには業務妨害罪を問う、○○大は三流大学で重要でないから業務妨害罪を問わない、ということはできないのではないかと思う。
また、入試の実施者が被害届を出す、出さないによらず、業務妨害罪は親告罪ではないので、あるカンニング行為を目撃した人は、誰でも、その行為をしていた人を現行犯逮捕し、警察官や検察官に引き渡しすることで、刑事責任を問うように捜査機関に求めることができるということになる。たとえば、試験会場で隣に座っている人がカンニングをしているようだと思うに足る十分な理由があって、試験中に証拠写真を撮影して、さらに逃亡の恐れがあるので直ちに現行犯逮捕するということを、他の受験生ができるということになる。警察・検察は、それによる告発を「単なる試験でのカンニングはわざわざ業務妨害罪に問われない」として不受理にすることができなくなってしまうのではないか (京大の入試の例を作ってしまうと、そういうことになる)。当然、カンニングを隣の人がしているのを発見した人は、その現場を押さえないといけないので、試験が終わってしまった後は証拠隠滅の恐れがあるという訳で、試験時間中に、その隣の人を現行犯逮捕しなければならない。そうすると試験中に現行犯逮捕や誤認逮捕が続出するかも知れない。
さらに、刑事訴訟法には「官吏又は公吏は、その職務を行うことにより犯罪があると思料するときは、告発をしなければならない。」という規定がある。公務員は、公務中にその公務に関係して誰かが犯罪行為をしているのを見つけてしまったら、告発しなければならない (しないことは許されない) ということになる。そうすると、公務員が監督する試験 (たとえば警察で行われる運転免許試験など) でカンニングをしていると思料される受験者を発見したら、「絶対に業務妨害罪で告発しなければならない (しないことは許されない) 」ということになる


確かに、カンニングそのものを「公平・公正な試験を妨害した」という理屈で業務妨害罪に問うことはできるだろうし、有罪にすることもできるだろう。しかし、その前例を作ってしまうと、それは上記のようなことが日本全国で多発する可能性の引き金を引く、とても危険な行為になってしまうのではないかと思う。

理由 2: 試験終了前に試験問題をインターネットに公開してしまったことが業務妨害罪の原因だという説が正しいとするとこうなる

試験時間中に、その時点では非公開である出題文についてインターネットに投稿して秘密情報を漏洩してしまったことが原因だとする説は、単なるカンニングが犯罪だというのではなく、カンニングをするために今回は「Yahoo! 知恵袋」という公開形式の掲示板に問題文をそのままコピーして質問してしまったことが業務妨害罪にあたるという主張だ。つまり、企業の未公開の秘密情報を掲示板などに掲載してしまい、それが原因でその企業が漏洩実施者を特定しようとするなど、その後処理に時間を取られて操業に支障が出たら、それは確かに業務妨害罪になるかも知れない。


では、そうすると、たとえば、京大の入試問題の数学の出題内容が

5 角形の内角の和を求めなさい。

だった場合に、「Yahoo! 知恵袋」を用いてカンニングをしようとした受験生は、この問題文をそのままコピーして掲示板に掲載すると業務妨害罪に問われるから、工夫をして、以下のように質問すれば良いだろう。

n 角形の内角の和を求める方法を教えてください。

そうすると、たぶん、以下のような回答が寄せられるだろう。

内角の和 = (n - 2) × 180°

このように、試験中にカンニングをするため、元々の出題の本質 (エッセンス) だけを抽出して、それについて「Yahoo! 知恵袋」に質問をしたり、または、問題文中の数値パラメータを適当に変更したものを質問したり、1 つの問題を分解していくつかの問題に分けて 1 個ずつ質問したりすれば、未公開の秘密の問題をインターネットに公開したということにはならないから (誰もそれらを組み合わせて元の問題を再現することはできなければ) 業務妨害罪にはならないのではないかと思う。


理由 2 が正しいとすると、今回の京大の事件の件は、インターネットに投稿された書き込みと、実際の京大の入試の出題が、全く同一であったから、その後に京大がそれを確認して「これはなんと、同一の問題が試験時間中に書き込みされているではないか。」と判断し、そのカンニング実施者の特定や対応に労力が浪費されたのが、業務妨害だということができるのだろう。

そうすると、前述したように、1 つの問題を変形させたり分割したり本質を抽出したりしてインターネット掲示板に書き込んで質問し、その回答を参考にカンニングすることは、業務妨害にならないということになる。なぜならば、その入試の実施者は、それらのインターネットに書かれた書き込みすべてを統合しても、元の出題文を構成する状態にすることはできないので、「これはなんと、同一の問題が試験時間中に書き込みされているではないか。」と判断し、そのカンニング実施者の特定や対応に労力を消費しようとすることはないからだ。

まとめ

いろいろ考えたが、理由 1 を原因として、カンニング行為そのものを業務妨害だとすることは、もしその前例を作ってしまうと、前述したように、後で大変なことになる (試験時間中に受験生が互いにカンニングの疑いがあるライバルを現行犯逮捕するというようなことを引き起こす可能性がある) ので、たぶん、もしこれを起訴するとすれば、検察は、理由 2 のほうを業務妨害罪の理由として主張するのではないかと思った。つまり、今回は単に動機がカンニングというだけで、別にカンニングそのものは犯罪ではないが、試験問題を公開前にインターネットに漏らしたことが犯罪なのですよ、という理論となるだろう。


そうすると、つまりはこの手のカンニングで利益を得たいと思う受験生は、「試験問題を公開前にインターネットに漏らしたこと」にならないように、前述のように、試験問題の中から本質を抜き出すとか、分割するとか、パラメータを変えるなどしてインターネット掲示板に質問すれば良いということになる。
もしそうならば、携帯電話およびインターネットの即答掲示板サイトを利用してカンニングをしようと企てる人は、上記に注意していれば、たとえ、試験中にその作業を行っている際に試験監督者にバレてしまったとしても、その後警察に引き渡されて、業務妨害罪で逮捕されるというリスクはないということになるので、今後も安心してカンニングすることができるということになるのではないか。


※ よく考えて投稿しましたが、私は法律については素人なので、上記について間違いがあった場合は申し訳無いと思います。

※ 不公平・不公正なカンニング行為を正当化したり、問題ないではないかと主張する訳ではありません (上記文章をよくお読みください。)