自動車保険会社の業務マニュアルのバグ。事故が起きてから保険に入れるというおかしな仕組み!

今日は、先日の、空港の税関での出来事 に続き、似たような話ですが、もっと私たちに身近な例として、自動車保険の保険料を、事故が起きた場合だけ支払い、事故が起きなかった場合は支払わない (返金してもらえる)」という状態になっていたという、とんでもない自動車保険会社の内部業務フローを発見し、指摘したことについて、記述します。
ちなみに、零細の保険会社の話ではありません。超有名な大手の損保会社の話です。

大手損保会社との電話でのやりとりで発覚した面白い事実

今日は、最近、ある自動車保険会社と話をした際に、その自動車保険会社が内部的に運用している業務マニュアルにどうやらとんでもない事が書いてあったという件について、以下に書きたいと思う。どこの自動車保険会社かということは明記しないことにする。なぜならば、指摘したことによって、業務マニュアルをその後直したらしく、もう実害はなさそうだからである。相手は民間企業であるが、総理大臣による保険業の免許で運営しており、また、多額の他人資本を運用しているので、準公的機関であるということができる。


自動車をよく運転する人のうち、ほとんどの人は、自動車保険に入っているのではないかと思う。自動車保険について、詳しく説明する必要はないと思うが、要するに、事前に 1 年間分の保険料 (事故があってもなくても予め払っておくお金) を支払っておけば、その 1 年間に、事故があったとき、それによって生じる損害や賠償責任を、保険金によって補てんしてくれる制度のことである。こんなことは当たり前だから書く必要は無いのだが、念のため書くと、「保険料」とは、保険会社に対して予め払い込む掛け金のことで、「保険金」とは、事故があったときだけ保険会社から支払ってもらえるお金のことである。似た言葉であるが、以下で混ざって出てくるので、混同しないように注意してお読みいただければと思う。


さて、私も自動車保険に入っていたのだが、自動車保険は通常 1 年間の定期契約である。しかし、少し事情があり、途中 (5 ヵ月くらい経過したところで、残り 7 ヵ月が残っている) で解約することになった。解約して、他の保険会社に乗り換えたいと思ったのである。前の保険会社では行っていないサービスが、乗り換え先の保険会社では行っているため、乗り換えようと思った (ちなみに、保険会社の乗り換えは、以下で書くことにはかかわらず、今は、完了している)。


自動車保険を解約したいと思ったので、コールセンターに電話した。この自動車保険会社は、最近流行っている、ネット通販型の保険会社で、対面営業をやっていないので、電話か、インターネットで手続きすることになる。電話の場合は、最初に、住所、生年月日などを言って、本人確認をすれば、手続きをしてもらえる。


ところで、この自動車保険会社では、1 年間の契約期間の途中で解約した場合、すでに契約の開始時に支払った保険料を、だいたい日割りで払い戻してくれるという約款になっている。この保険会社以外でも、ほとんどの自動車保険ではそうなっているかも知れない (詳しく調べていない)。私の場合は、5 ヵ月くらい経過したところで、残り 7 ヵ月だったので、約 58% くらいの金額を払い戻してくれるということだった。これはとても有難いことである。


それでは、空港の税関での出来事の日記に倣って、電話での保険会社のコールセンターのお姉さんとの間での会話を以下のように書いてみる。記憶をもとに書いているので、不正確な部分があるかも知れないが、だいたいの趣旨は合っていると思う。

自分「保険の途中解約は電話でもできますか?」
損保「はい、承っております。」
自分「4 月に契約して、今は 9 月ですが、残り 7 か月分は解約したい。他の保険会社に乗り換えるためです。来週の月曜日から解約ということにしてください。」
損保「承知しました。」
  (・・・ 以下 普通の流れで手続き完了 ・・・)
損保「解約の仮手続きが完了しました。来週の月曜日から解約になります。払い戻し保険料は、40,000 円になります。返金は指定いただいた銀行口座まで振込させていただきます。(金額は適当)」
自分「わかりました。ありがとうございます。」
損保「ところで、数日以内に、弊社から、お客様宛に、郵便で、"解約申込書" という書類をお送りいたしますので、それに署名・捺印していただいて、返信用封筒で弊社まで返信していただけますか?」
自分「先ほど、解約はこの電話で完了したと言ったのに、なぜ、また別の書類を返送しなければならないのか?」
損保「電話では解約の仮手続きをさせていただいただけです。本当の解約は、この "解約申込書" が返送されてきたことを弊社が確認した時点で、解約ということになる決まりになっております。」
  (ここまでは、普通の契約者と同じような、ごく普通のフローによる対応。しかし、興味本位でついでに変なことを聞いてみると、とんでもない事実がこの後の会話で判明!)
自分「なぜ面倒な書類を出す必要があるのか?電話での解約申込で十分なのではないか。」
損保「お電話ですと、いわゆる、言った、言わないというようなトラブルが発生しますので、弊社では、"解約申込書" の返送をいただかないと、解約したことにはできません。」
自分「なるほど、分かりました。ところで、その "解約申込書" とかいう書類の、捺印と返送が遅れてしまった場合、たとえば、2 週間くらい放っておいてしまって、その後に返送した場合は、やっぱり、解約日は来週の月曜日からではなく、その書類が返送された日からになってしまうのですか?その場合は、返金の金額が減少してしまうことになりますか?」
損保「いいえ、たとえ、万一、書類の返送がお客様のご都合で遅れても、解約日は、先ほど確定しました、来週の月曜日からとなります。返金額も変わりません。」
  (ここで、ピンとした読者の方は素晴らしい。私も気になってやっぱり以下を聞いてみた。)
自分「そうですか。ところで、この電話で、来週の月曜日に解約をすることに決まりましたが、その後、その書類の返送を、私が自分の都合で、返送せずに放置しておいた場合は、どうなりますか?」
損保「その場合は、書類が返送されるまで、契約は継続しているということになります。今の段階では、電話では仮解約という状態になっていまして、弊社のシステムでは、解約したということにはなっていません。」
自分「そういう状態で書類の返送を私が放置したらどうなるのですか?」
損保「1 ヵ月後に、電話で催促させていただく決まりになっております。」
自分「催促されても、契約者が、無視して、返送しなかったら、どうなるのでしょうか?」
損保「えーっと、・・ちょっとお待ちくださいね。・・・ああわかりました、次は 2 ヵ月後に電話で催促、3 ヵ月後にもまた催促、というような感じで毎月 1 回電話で催促して、返送をお願いするような決まりになっております。」
自分「なるほど。それじゃあ、たとえば 6 ヵ月間催促されて、無視していたが、6 ヵ月目に、その "解約申込書" をようやく返送した場合は、6 ヵ月前の現在まで遡って、現在の予定の、来週の月曜日に解約があったことになるのですね!」
損保「はい。いつ "解約申込書" を返送していただいても、返送が万一遅れても、返送された時点で、もとの解約日に解約があったということにします。」
自分「じゃあ、ちょっとお聞きしたいのですが、さっき、この電話で "仮解約" をしたところだと思いますが、"仮解約" は本当の解約ではなく、後日、その "解約申込書" を返送してようやく本当に解約されるということで、本当にあっていますか?」
損保「その通りでございます。」
自分「そうすると、やっぱり、念のため、聞きたくなりますが、もし、この電話で "仮解約" をしてから、その "解約申込書" を返送して本当に解約となる日までの間の期間中に、私が自動車を運転して事故を起こした場合は、その場合は契約は継続されていたということになるので、保険金は支払われるのですか?」
損保「はい、もちろん、その場合は、"本当の解約" はまだですので、契約は継続しているということになり、弊社としては、保険金をお支払いいたします。」
  (ここで、私は自分の耳を疑ったのだが、確かにこのように言われた。)
自分「それは少しおかしいのではないですか?その仕組みだと、今、私が、契約を電話で "仮解約" しましたが、その後も、1 年間の契約期間が残っている間は、あえて、手元に "解約申込書" を返送せずに保管しておき、それで引き続き自動車に乗り、それで、もし、もとの契約期間が終わるまでの間に自動車事故が発生したら、その "解約申込書" を返送しないことにして、保険金を受け取ることができるということになりますが、本当に、そうなのですか?」
損保「はい、ご説明した通りでございますが。」
自分「やっぱり少しおかしいのではないですか?少しというよりも、これは、かなりおかしいのではないですか? もし、1 年間の契約期間が終了するころに、私は、事故が起きていなかったら、そのさっきの "解約申込書" を返送すれば、1 年間の保険料のうち 7 か月分くらいの保険料の払い戻しが受けられるのですよね?」
損保「はい、それも先ほど説明した通りです。何かご不満でしょうか?」
自分「いえ、それは、私にとって別に不満ではないのですが、あなたはやっぱりコールセンターのオペレーターの方なので、ときどき間違うことも言うかも知れませんから、ちょっと、今言ったことが本当に正しい御社の決まりなのか、それとも、あなたの言い間違いなのか、ちょっと上司のような人がいれば、その人に確認してきてもらえませんか。そのほうが良いと思います。」
損保「何がおかしいのでしょうか?」
自分「あなたの言うことが本当だとすると、御社の保険の契約者は、自動車保険の保険料を、事故が起きた場合だけ支払い、事故が起きなかった場合は支払わないというか、返金してもらえるということができるということになるのですが。それは、保険として、おかしいのではないですか?保険というのは、将来起きるか起きないか分からないようなことについて、そのリスクを、あらかじめ支払う掛け金で負担してもらうという制度だと思うのですが。」
損保「よくわかりませんが、とりあえず、実はこの電話もすべて録音しておりますので、少し上席に確認してまいります。しばらくお待ちください。」
  (ここで 10 分くらい待たされる。)
損保「お待たせいたしました。お客様のご質問について、上席によく確認してもらい、ついでに、社内の業務の決まりのマニュアルもよく確認しましたが、結論としましては、私が先ほどお伝えした内容に、間違いはないようです。」
自分「それでも、保険者が、保険料を負担するかどうかを、実質的に、後から決めることができる保険は、おかしいのではないかと思いますが。」
損保「しかし、上席に確認しましたし、マニュアルも確認しましたが、そうなっていますから。」
自分「それでは、私は、保険の仮解約を先ほど電話でしたけれども、その後、"解約申込書" という書類は、あえて返送せずに、7 ヵ月後までに事故がなければそれを返送して保険料を返金してもらい、もし事故があればそれは返送しないことにして保険金を請求しようと思うけれども、それで良いですか?」
損保「"解約申込書" は、できるだけ速やかに返送してください。」
自分「いや、先ほど言われたことを聞いたところでは、返送しないほうが自分にとって有利なように思えるので、返送しないようにします。」
損保「返送していただかないと、催促を 1 ヵ月ごとに電話でする決まりになっております。」
自分「今までの話ですと、返送するかしないかは、最終的には、契約者の側が自由に決めることができる仕組みじゃないですか。だから、私は、自分の意思で、その書類が送られてきても、あえて、7 ヵ月間、返送しないことにします。」
損保「そのようなお客様は、弊社のマニュアルで想定されていません。」
自分「私は、御社のマニュアル通りに動く訳ではありません。それに、思うに、これは御社の利益のために言うことですが、今のところ、その "解約申込書" を御社が私に対して発送することは、御社にとって不利だと思います。」
損保「"解約申込書" はコンピュータ処理で自動的に発送されますので、これを変更することはできません。」
自分「本当に業務マニュアルがそうなっているのですか。上司にも確認しましたか。私が言っていることが正しいと思うので、もう一度、確認してもらってきてください。」
損保「・・・分かりました。」
  (ここで再度 15 分くらい待たされる。)
損保「本部に確認してきましたが、やはり、弊社のマニュアルではそうなっておりますし、お客様のようなご意見を承るのは初めてですので、特に問題はないと申しておりました。」
自分「しかし、現在の御社の業務マニュアルが正しいとすると、私と同じことを考えた人だけが、保険料を支払わずに保険を受けることができてしまうのですが。保険業法という法律がありますが、特定の者に対して不当な差別的取扱いをすることを禁止する仕組みになっています。御社のこの話ですが、不当に保険料を免れて、保険に入るということができる人の存在を許しているので、絶対というわけではないが、この法律に違反しているのではないですか?」
損保「ちょっと、法律のことを言われましても、私たちは私たちの業務マニュアルに基づいて業務を行っているものですので・・・」
自分「あなたのところの保険会社は、法律とは無関係に、自分の業務マニュアルに基づいて業務を行っているということですか?これについてもう一度上司に確認してもらってください。」
損保「・・・分かりました。」
  (今後は長いぞ。30 分くらい待たされる。)
損保「お待たせいたしました。2 つ回答させていただくことがあります。1 つ目は、先ほどの、法律の話ですけれども、やっぱり、私たちは、法律に基づいて保険を提供しているということがわかりました。」
自分「なるほど。」
損保「2 つ目ですが、より詳しく弊社の業務について会社の本部に確認しましたところ、さきほどの回答内容というか、マニュアルには問題がございまして、今後は、電話による解約で解約手続きをしたということにさせていただきまして、その後事故が発生しても、"解約申込書" の返送があるか無いかにはかかわらず、保険金は支払わないことになるようです。」
自分「それでは "解約申込書" をわざわざ書式を送ってもらってそれを捺印して返送するということは面倒なので要らないのではないですか。」
損保「それはコンピュータで自動で送られる仕組みになっておりますのでやっぱりお願いしております。」

※ 損保: 自動車保険会社のコールセンターのお姉さんの声

実際には他の内容の話もあったが、抜粋すると上のようになる。


ちなみにこの某自動車保険会社は、直販系の損害保険会社としては超有名な部類に入る会社である。
最初は上記の会話はコールセンターの人が単に間違って回答しているだけなのだろうと思っていたが、2 回確認してもらったところ、本当に、その会社の業務フロー (業務マニュアル) がこのようにとんでもないことになっていたのだということが分かった。とにかく、その後、おかしな点は直したらしいので、まあ良いではないか。


これをお読みの方は、日常的にマニュアル化されているような業務に遭遇したら、ちょっと普段とは違うような思考で、その堅牢性を確認してみると良いのではないかと思います。それを指摘することは、面倒なことですが、長期的に見ると、それは自分がそれによる損失を受けることがなくなり、自分にとって利益になります。また、その指摘をした相手が修正することで、その相手も損失も防ぐことができますので、良いことだと思います。

社会システムに存在する手続き上の問題点を指摘または公表することについて

以前、空港の税関での出来事 を日記に書いたところ、「これはソフトウェアのバグを見つけることによく似ている」というような意見をいただいた。最近の用語には詳しくないが、ソーシャル・ハックとか、ライフハックとか言うらしい。
そういう、既存の社会のシステム (コンピュータシステムではなく、人的手続き) の問題点は、いろいろなところに隠れているのだと思うが、それらは、運用者に気付かれない間に、一部の人に悪用されている可能性があるので、できれば、それを見つけた善意の人は、その問題点をこっそり指摘してあげるか、指摘しても聞いてくれないようなときは、blog 等で大々的に公表するのが良い。


既存の社会にある意図しない欠陥、障害、問題点を探して、論理的に解析して、矛盾点を見つければ、そこにだいたいおかしな動作をさせることができるきっかけを発見することができるはずである。
このようなソーシャル・ハックを行って、それをインターネット等で公表することは、あくまでも、行政機関とか、公的機関とか、表向きは公的機関でなくても実際にはほぼ特定の事業を独占しているような民間機関とか (要するに取るのが難しい許認可が必要な業者) に対して行うことは、ほぼすべての場合において、とても良いことである。なぜならば、それを指摘することは、すべての人々にとって、長期的に、必ず、利益となるということができるためである。
一方、純粋の民間企業 (上記にあてはまらない普通の会社など) の欠陥を見つけたり、サービスが悪いとか言って文句を言ったりすることは、ほどほどにしておくのが良いと思う。なぜならば、それはごく一部の人にとってのみ利害関係がある事柄なのであり、それ以外の人にとっては、単なる嘲笑の内容が増える結果だけになってしまうからである。純粋の民間企業は、常にサービス品質による競争に晒されているので、わざわざ、サービスが悪いとか、やり方が間違っているとか言って、違法でもないことを、重箱の隅をつつくようにしてクレームしなくても、自動的に淘汰されて、他のよりサービスが良いまたは業務がしっかりしている同業他社に負けてしまうので、違法なことを見つけた場合以外は、放っておけば良い。
行政機関とか、公的機関とか、準公的機関は、この競争原理が働いていないので、違法なことでなくても、単に態度が悪いとか、少しおかしいのではないかとか、そういうことがあれば、大声で、文句を言ったほうが望ましい。競争原理が働いていない以上、放っておいても、それが改善される可能性はほとんど無いからである。
ある純粋民間企業について、違法でもないことについて、文句を言う資格があるのは、顧客や取引先などの利害関係者だけである。それ以外の人は、文句を言う資格がない。しかし、行政や、公的機関に対しては、違法でないことであっても、国民であれば、誰でも、平穏に、文句を言い、改善を求める資格がある。


先日、空港の税関での出来事 を日記に書いたら、枝葉末節をつついているだけだとか、税関の人がかわいそうだ (?) とか、いつも日常的なことについてこういうくだらないことばかり言っているのかとか、いくつかの意見をいただいた。私は、日記に書いていること以外にも、色々と、おかしな点を指摘して文句を言うことはあるが、それは、ほとんど、対象の相手が上記の「行政機関とか、公的機関とか、準公的機関のような競争原理が働いていない」事業者の場合のみである。または、民間企業や自然人であっても、自分と現在敵対関係にある人に対しては、このような指摘をして攻撃することはある。しかし、私にとって、友好的な民間企業や、友好的な人に対して、枝葉末節をつつき、また、論理を用いて、相手の不利益を目的として、攻撃したりすることはしない (頭の体操のためにそういう議論をすることはある)。だから、いつでも誰に対してもこのようなソーシャル・ハックのようなことをやっている訳ではない。