生身の個人情報リストを見たことのある人はどれくらいいるのだろう

猫も杓子も個人情報と叫ぶ時代になったようである。
業界誌などを見ると、個人情報を守れ!とか、色々な対策記事が載っている。
セキュリティに関することをやっているような会社も、ここぞとばかりに便乗して広告を出している。今や個人情報保護ビジネスには大量の人が関わっている。
だがそういうビジネスに関わっている人たちのうち、『生身の大量の個人情報』を自分の目で見て、何か感じとった人は、あまりいないのではないだろうか。


少量の個人情報が少し漏れるだけでも問題となるのだから、大量の個人情報データが漏れると騒ぎどころではなくなる。情報の量も重要だがそれより重要なのは質というか内容である。
今や氏名や住所、電話番号などはすでに全国民分流れているので、質が低い情報であると言える。つまり政府や自治体が管理しているような情報には、民間企業が持っている情報と比べるとそれほど価値は高くないようなのである。

各民間企業が管理している大量の個人データそのものにも、対した価値は無い。氏名や住所などはすでに全国民分出回っているので、そういうものは本当に価値のある大量の個人情報が欲しいと思っている人にとっては取るに足りない。

価値があるのは、そういう基本的な情報ではなく、より専門的に特化した情報である。たとえばポイントカードを導入している店舗、通信販売をやっている業者、通話記録を管理している電話会社、などが持っている情報は、本当に価値が高い。


こういった情報は多くが断片化されているし、形式もそれぞれのシステムによって異なる。だから、色々なルートでこういうデータを入手した個人情報売買業者などは、大抵は氏名と生年月日でデータと個人との対応付けをする。生年月日は少し親しくなった人に尋ねると大抵教えてくれる情報なのだが、実はかなりセンシティブな情報なのだ。生年月日だけで日本国民全体のうち数万分の1にフィルタをかけることができる。それでも同姓同名かつ生年月日も一緒という人はいる。だがそういうのは極めて少数なので仮に間違って重複してしまったり入れ替わってしまったりしていても統合した後の全体データとしてはそれほど品質に影響は出ないようだ。

こういう、専門領域に特化した個人データはどこに売れるかというと、大きいのがやはりライバル企業らしい。プロファイリングに使うのだろうか。大抵の個人データを扱う企業は、表向きは「プライバシーを保護しています」などと宣伝しているが裏では個人データを仕入れて色々処理しているところもあるとか。


こういう恐ろしい大量の個人情報のデータベースのテーブルが、何十万件、何百万件と並んでいるディスプレイ画面を見たことのある人は、個人情報保護関係のビジネスをやっている人の中でどれくらいいるだろうか。
私もそういうのを見る前は、「ああ〜個人情報か〜」と適当に考えていたが、実際にずらーっとセンシティブなデータが並んでいて、しかもその状態では膨大な行数のテーブルがいくつかあるだけだが、これをちょっとしたプログラムを書くことで有機的に結合して素晴らしいデータが取り出せるというような状況を目の当たりにして、考えが変わったものである。それ以降、こんな大量の個人データは、世の中にある触れてはならないような恐ろしいものの一つである、という考えを持つようになった。うまく言葉では表すことはできない。


個人情報保護! などというビジネスに携わっている方々で、こういう恐いものを見たことが無い方は是非一度自分の目で目撃してみるのも良いと思う。きっと個人情報に関する考えが変わるはずだ。まあ普通は見れないので、とりあえず乱数か何かでそれらしいものを作って眺めてみたつもりになってみるのはどうだろうか。