iBooks (iPad 電子書籍) で英和辞書を表示させる裏技
最近、iPad を使って電子書籍を読んでいる。iPad における電子書籍のシステムとしては、Apple の iBooks と Amazon の Kindle (キンドル) の 2 種類が有名である。いずれもインターネット上で書籍を電子的に購入しすぐにダウンロードすることができる。Kindle といっても、Amazon 製のハードウェアを買わなくても、iPhone または iPad があれば、Kindle アプリケーションをダウンロードして、そこで Amazon.com の Web サイト上で購入 (決済) した書籍をすぐにダウンロードして表示できる。
電子書籍がこのように利用可能になるまでは、日本では、洋書を購入したいと思っても、書店にはなかなか置いておらず、Amazon で注文すると米国から取り寄せるので数日間かかっていたが、これが瞬時に購入できるようになったというのは大変便利である。しかも、iPad や iPhone でいつでも読めるし、何冊分も持ち歩いても重さが増えないのが良い点である。品揃えの点で比較すると、iBooks よりも Kindle のほうが良いように見える。流石に書籍販売の老舗であるだけのことはある。しかし、Kindle においても、まだ、画像が多い (ファイルサイズが大きくなる) ような本の数は少ないようだ。
今のところ iBooks、Kindle のいずれも洋書しかまだ提供されていない。iBooks は Apple の方針により、日本のユーザーに対しては、まだ本格的に電子書籍のダウンロード (購入) を認めていない。iTunes のアカウント (Apple ID) として登録されている居住所が米国かそれ以外かで、ダウンロード可能な洋書を制限しているようである。これは恐らく権利関係の問題だと思われる。これと比較して、Kindle では、日本の居住者であっても、特に差別を受けることなくほとんどの洋書を購入できるようだ (ごく一部の洋書は購入できないという注意書きが Amazon.com のサイトに掲載されていたが、具体的にどのような本が該当するのかは分からなかった。Amazon.com では mp3 のダウンロード購入が可能だが、これも居住地が米国以外だと購入できないものが多いので、似たような制限であると思われる)。
今のところ、iBooks では本来は米国の居住者でしか洋書を購入できず (日本の Apple ID でもいくつかの書籍は表示されるが、あまり面白いものがない)、また、その認証は Apple ID と共に登録するクレジットカードの発行地によって識別しているようである。したがって、米国のカード会社発行のクレジットカードがなければ、原則としては洋書が購入できないはずであるが、裏技として、このような Web サイトで購入できる iTunes Music Store Card (プリペイドカード) を使って日本から米国用の Apple ID を取得して使用するということも技術的には可能であると思われる。
しかし、米国の iTunes Store の規約 によると、「iTunes Store でのご購入は米国の領土および占領地の中でのみ可能です。」というようなことが書いてある。したがって、上記の方法で、日本にいる人が、米国の Apple ID を取得して iTunes Store から音楽や電子書籍を購入することは禁止されているように見える。また、米国人であっても、米国外に旅行した際に iPad や iPhone を持って行って、そこから購入することは禁止されているということになる。逆に、日本人が、米国へ旅行に行った際に購入するのは良いということである。また、「米国の領土および占領地の中で」購入すれば良い訳であるから、日本人が、在日米軍基地の領地に一時的に立ち入って (桜祭りなど) そこで購入操作を行えば、それは iTunes Store の規約に準拠した購入行為であると思われる。
余談だが、推測としては、この規約は、何となく、Apple が音楽や電子書籍の既得権者に、書け書けと言われて、本意ではないけれど、仕方なく書いているように思える。既得権者としては、地域ごとに異なる価格でコンテンツを売ってお金儲けをしたい訳だが、これまでは国境・税関の壁というのがあり、既得権者は何も努力しなくてもその壁によって思惑通りになっていたところ、電子的なダウンロード形態はそのような国境の壁を通り抜けてしまうので、困っているのだろう。
さて、以下では、日本人が、iTunes Store (米国) で、iBooks 用の電子書籍を、上記のように、iTunes Store の規約に準拠して正規に購入した場合を仮定した話をする。
iBooks で購入した洋書は、当然英語が書かれているので、わからない単語が出てくる。この際、iBooks には標準で英英辞書が入っている。New Oxford American Dictionary という辞書である。実は英語の本を読むときには、英和辞書を引くよりも、英英辞書を引くほうが、脳の中で一時的にでも日本語の思考ルーチンが呼び出されることがないので良いらしい。
しかし、そもそも、英英辞書は、英語圏の人のために言葉の意味を詳しく知るために作られた辞書である。そこで、英語の初心者の場合は、英英辞書を読んでもよく意味が分からないという場合が多いかも知れない。日本人が洋書を読むときに、できれば、iBooks が、英英辞書よりも、英和辞書を表示してくれたほうが良いと思う人も多いだろう。
そこで調べてみたところ、驚愕の事実が分かった。実は、iBooks の中には、英英辞書 (New Oxford American Dictionary) の他に、標準で、「小学館プログレッシブ英和・和英辞書」の全データが入っているのである。このことに気付いた方の blog が ここ にあった。この blog によると、iPad / iPhone 内の設定ファイルをいじることにより、英英辞書でなく、代わりに、英和辞書を呼び出して表示することができる。これはびっくりである。なぜ Apple は、iBooks に辞書の選択機能を付けなかったのだろうか。データとして「小学館プログレッシブ英和・和英辞書」が内蔵されているのに、それが標準で使えないのは、とてももったいないことである。これは、iBooks は現在、主に米国人のために提供されているアプリであり、日本人が iBooks を利用することはあまり想定されていないということが原因であると思われる。
上記の方法を用いることで、英和辞書を表示することができるらしいのだが、そのための設定ファイル (XML) を書きかえるためには、iPad / iPhone の Jailbreak が必要であるということである。Jailbreak をすることは技術的なリスクが伴うし、また、iPad の OS のバージョンを最新に上げてしまっているので、Jailbreak 用の expliot を行うことが難しかった。そのため、Jailbreak は諦めて、他の方法を調べてみることにした。
そこで調べた結果、この blog 記事 によると、ePub データの中の language タグを en から ja に変えるだけで、辞書として英和辞書が呼び出されるようになるらしいと書かれていた。そこで、試しに iTunes で購入した洋書のデータファイルを何冊か書き換えて iPad に再転送してみると、確かに、以下のように英和辞書が表示されるようになった。これは完璧に動作し、全く不具合は感じられない。
上記のように、標準状態では英英辞書が表示されてしまうところを、
方法は少し面倒であるが、慣れれば 1 冊の ePub データにつき、1 分くらいでできる。これを自動化するプログラムも、簡単に書けそうである。以下に手順を示すので、興味がある方は自己責任で試してみるとよい。
まず、iTunes でダウンロードした電子書籍データの ePub ファイルを開く。ePub ファイルは、Windows 版 iTunes の場合は、「My Documents」の下の「My Music\iTunes」等に保存されているはずである。保存場所は iTunes の「ブック」フォルダの中の当該書籍のプロパティを表示すると正確に画面に表示される。
ePub ファイルは、実は ZIP 形式のアーカイブファイルである。普通の ZIP アーカイバ (Lhasa とか) で展開することができる。また、Windows のエクスプローラで開くこともできる。そこで、拡張子 .epub を一時的に .zip に変更し、開いてみよう。すると、以下の画面のように、いくつかのサブディレクトリがあり、いずれかのディレクトリの中に「.opf」という拡張子のファイルがある。
この .opf ファイルをテキストエディタで開くと、XML データ形式になっていることがわかる。そこで、「dc:language」という名前のタグを探し、その値が「en」になっていると思うので、それを「ja」に書き換える。
書き換えたら .opf ファイルを保存して、元の ePub ファイル (ZIP ファイル) に書き戻して保存する。そして、拡張子を .zip から .epub に戻す。それを iTunes で iPad や iPhone の iBooks に書きこむ (同期する)。なお、すでに iPad 上の iBooks にその書籍が登録されている場合は、一度削除してから、同期する必要がある (すでに登録されている書籍データと同一の ID を持つ ePub ファイルを iPad に書き込もうとしても無視される。恐らく、ファイル内容やハッシュなどはチェックせずに、単に ID だけで重複検査をしているのだと思われる)。そして iBooks を起動すると、とても嬉しいことに、単語を調べる際に英和辞書が表示されるようになる。
なお、前述の Jailbreak して辞書の指定を書きかえる方法で英和辞書を表示することもできるかも知れないが、その方法だと、すべての洋書に対して、表示される辞書が英和辞書になってしまう。
ここで紹介した方法は、それと異なり、洋書ごとに、英英辞書を表示させるか、英和辞書を表示させるかを個別に設定することができる訳である。たとえば、簡単な難易度の本は英英辞書で、とても難しく分からない単語だらけの本はストレスがたまらないように英和辞書で勉強しながら読み進めるということができる。
iPad / iPhone 版 Kindle に辞書が搭載された
昨日、iPad 版 Kindle アプリに辞書が搭載されたバージョンがダウンロード (アップデート) 可能になった。ただし、英英辞書のみである。これも Apple の iBooks と同様に、New Oxford American Dictionary が使用されている。実はハードウェア版 Kindle には昔から英英辞書が搭載されていたが、iPad 版には未搭載であった。これが非英語圏の読者が iPad 版 Kindle で洋書を読む際における欠点であったが、今回のアップデートにより、Kindle のその弱点はなくなったことになる。
iBooks は前述のように、品ぞろえが Kindle Store と比較すると悪いし、また、米国の領土以外で洋書を購入することが規約上できないように書いてあるので、日本人が日本から iBooks 用の本を購入するのは気持ちが悪いという欠点がある。しかしこれまでは Kindle アプリが辞書を持っていなかったので、仕方なく iBooks のほうを使っていた人もいただろう。だが、このアップデートによって、下の画面のように、iBooks と同様の辞書が Kindle でも表示できるようになったので、英英辞書で満足できる人は、これでもう iBooks を使う必要は無くなるかも知れない。
iBooks と比較して Kindle が良いところは、iPad, iPhone, ハードウェア版 Kindle、PC (Windows) でも書籍が読める点にあると思う。iBooks では iPad や iPhone でしか読めない。Kindle Store で購入した本は、もし、将来、iPad や iPhone がガラクタになってしまっても、新たなデバイス上で Kindle アプリが走れば、再度書籍を購入しなくてもそのまま読める訳である。Amazon の戦略を考えると、今後、多くの携帯デバイスで Kindle アプリが動作するようにしそうなところである。これと比較して、iBooks 用に書籍を購入することは、今のところ、Apple のデバイスに依存してしまうというリスクを抱えることになる。
また、上記の画面を、iBooks の辞書の写真と比較していただければわかりやすいが、Kindle では、英英辞書の単語は画面の下の部分に表示される。iBooks では、iPad 版ではポップアップ形式で、iPhone 版では画面が切り替わって表示される。どちらかというと、Kindle の表示方法のほうが目ざわり感が低いと主観的には思う。さらに、Kindle では単語を 1 度タップするだけで、簡単に辞書が出てくるが、iBooks では単語をタップしてさらに「辞書」というボタンをタップしなければ辞書が出てこない (要するにタップ回数が 1 回多く必要である)。また辞書を表示するときのレスポンス (体感速度) も Kindle のほうが断然良い。
逆に iPad 版 Kindle の欠点は、今のところ、英英辞書しか内蔵しておらず (厳密には、内蔵ではなく、最初に辞書を使用しようとする際に自動的にダウンロードされるようである。これは iPhone 版の iBooks も同様である)、英和辞書を表示する方法が無いということである。ハードウェア版 Kindle では無理やり英和辞書を入れる方法があるらしいが、今のところ、iPad 版 Kindle ではそれは不可能である (もしかすると、Jailbreak すれば可能なのかも知れない)。さらにもう 1 つの欠点は、iBooks が一応は (暗号化はされているものの) ePub 形式でデータをファイルの形式でダウンロードできるのに比べ、Kindle ではプロプライエタリな独自形式でしかデータをダウンロードできない点である。この 2 つが解決されれば、Kindle のほうが iBooks よりも強い電子書籍閲覧・配信システムになると思う。